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「伝説でしょ」オリックス小田裕也のサヨナラバスター、32歳苦労人が“ワンチャンス”を掴むまで《今季はわずか1安打》
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph bySankei Shimbun
posted2021/11/17 11:02
日本シリーズ進出を決めるサヨナラバスターを決めたオリックス小田裕也。チームスローガン「全員で勝つ!!」を象徴するシーンだった
一方、小田は冷静だった。打席に向かう前に、中嶋監督からは「いろいろ状況が変わるだろうけど、思い切っていけ」と声をかけられていた。ロッテ内野陣がマウンドに集まってできた“間”も、小田にとって頭を整理するプラスの時間となった。
何より、日々ベンチで中嶋監督の采配を間近に見てきた小田には免疫ができていた。
「サインが変わった時も、『あ、バスターか』ぐらいな感じでした。いろいろあるだろうなと思いながら行っていたので。毎日、(試合に)出ていなくてもベンチで、1球1球、瞬間瞬間で、例えば相手の牽制の間によってもサインがコロコロ変わっていくのを、140試合以上見てきましたから。
監督が何を考えているかは僕らも全然わからないですけど、ベンチから見ていて面白い野球だと、厚かましいですけど、思っていました。セオリー通りだけではないというのはわかっていましたし、年間を通してやっていくうちに、『この辺でこういうのありそうだな』と考えられるようになってきたと思います。だから特に驚きはしませんでしたね」
むしろ、「バスターになって、ちょっとホッとした部分もあった」と振り返る。
「バントのほうが緊張します。『絶対決めないといけない』というのがあるので、バントのほうがガチガチになるんです。バスターは、ま、決めないといけないんですけど、結構運まかせというか……。そういう部分もあるので、そっちのほうが気が楽というか、割り切っていけるからよかったのかなと」
「神がかってる。伝説でしょ。伝説」
ロッテの守護神・益田直也の初球は、「バントをやらせにきたような球に見えた」。内に寄ってきたその球に反応して振り抜くと、打球は一塁手・三木亮の横を抜け、ライト線を勢いよく転がっていく。二塁ランナーがホームに還り3-3の同点となった時点で、オリックスの日本シリーズ進出が決定し、規定によりゲームセット。CS史上初の“サヨナラドロー”での決着となった。
宗の興奮には続きがある。
「『裕也さん決めてくれ』と思っていたら、ほんとに決めた。僕バスター成功初めて見ました。うちのチームが、バスターのサインで、しかもサヨナラって、すごいですよね。裕也さん、今年(レギュラーシーズンの安打が)1本っすよ。すごくないですか? サインを出す監督もすごいし、決める裕也さんもすごい。神がかってる。伝説でしょ。伝説」
小田は、ベンチから弾けるように飛び出してきたチームメイトにもみくちゃにされた。プロ人生で「1番」の瞬間。
「最・高ですねー」。そう心から笑った。