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「伝説でしょ」オリックス小田裕也のサヨナラバスター、32歳苦労人が“ワンチャンス”を掴むまで《今季はわずか1安打》 

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米虫紀子

米虫紀子Noriko Yonemushi

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photograph bySankei Shimbun

posted2021/11/17 11:02

「伝説でしょ」オリックス小田裕也のサヨナラバスター、32歳苦労人が“ワンチャンス”を掴むまで《今季はわずか1安打》<Number Web> photograph by Sankei Shimbun

日本シリーズ進出を決めるサヨナラバスターを決めたオリックス小田裕也。チームスローガン「全員で勝つ!!」を象徴するシーンだった

 プロ7年目の32歳は、今年、自己最多の101試合に出場したが、そのほとんどが代走や守備固め。打席数はわずか18でプロ入り後もっとも少ない。苦悩のシーズンだった。

 足の速さと走塁技術、判断力などをトータルすると、走塁に関して小田はチーム1。守備も安定しており、試合終盤の欠かせない存在となっている。だが、走塁や守備のスペシャリストとして生きる、というふうには小田は割り切れなかった。

「葛藤はすごかったですね。毎日、朝起きるたびにありました。やっぱりスタメンで出たいというのは、誰もが思っていること。僕は30歳を超えているんですけど、そこはやっぱり、消えない。だから、やる意味あるのかな、と考えるぐらいまで落ちる日もあったし、今年で終わろうかな、終わるんだろうな、と思ったり。

 スタメンで出たいと思いながら、自分の実力のなさを痛感し、でも与えられた役割もあって……いろんな感情がゴチャゴチャになった1年ですね。割り切れる日もあれば、やっぱり(スタメンで)出たいなと思う日もあった。もちろんこのポジションを与えてもらっているんで、そこに関してはしっかり準備して、責任を持ってやります。

 でも、自分で言うのもなんですけど、絶対必要というポジションではないと思っています。いれば助かるけど、いなくても別にそんなに困らないポジションではあるので、難しいところ。そこは自分に『仕事だ』と言い聞かせたり、その中で、他の人が捕れないようなボールを捕る、1個でも先の塁を奪う、ということをモチベーションにしたりしていました」

「優勝させてもらった」という感じで

 葛藤の日々の中でも、中嶋監督が何気ない会話をしてくれることは救いだった。

「真剣な話はそんなになくて、冗談まじりだったり、本当に何気ない会話なんですけど、話しかけてもらえるだけで、やってやろうという気になるので、その辺はうまい人なのかなと(笑)」

 そうしてやる気になったり、自分で自分を奮い立たせながらシーズンを戦ってきたが、優勝争いをするチームを、どこか一歩引いて見ていた部分もある。

「チームが勝つのは嬉しいんですけど、複雑な気持ちもありました。自分が直接的に勝ちにつながることがあまりなかったので。打って、ド派手に決めるとかもないですし、守備でどうこうも特にないですし。走塁と言っても、誰かが打ってくれないと、僕は代走に行けないし、誰かが打ってくれないと、点にならないので、そこはみんなに感謝しながら、どこか客観的に見ていたような気がします。『みんなすごいな』って。だから『優勝させてもらった』という感じで、自分がその中に入ったという感覚はなかったんです」

【次ページ】 山足との会話「ワンチャンス、あるかも」

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