2歩目のための1歩目――。高津監督の視線は常に未来を見据えている。このとき「来年のために」と語っていたことが、まさに今年、現実のものとして花開いたのである。

そして“伏線回収”は続いていく

　昨年は徹底的に二軍で鍛え、シーズンの最後の最後に一軍で経験を積ませた。今季は「中10日」前後という変則ローテーションを貫き、辛抱強く起用した。その結果、期待の大器は見事なピッチングを披露し、首脳陣からの、そしてファンからの圧倒的な信頼を勝ち取るまでに成長した。

左から2安打1打点の塩見泰隆、奥川、初回に2ランを放ったサンタナ、つば九郎　©Kiichi Matsumoto

　それでも、「ヤスのポテンシャルからすれば、まだまだこんなものじゃない」と高津監督は断言する。やはり、その視線は常に将来を見据えている。思えば、一昨年までの二軍監督時代、そして一軍監督に就任した昨年、村上宗隆に対しても同様の発言をしていたことが思い出される。

　今シーズンのある時期、星稜高校では奥川の1年後輩となる内山壮真を一軍に帯同したこと。あるいはCSの息詰まる空間の中で、プロ2年目の長岡秀樹をベンチに入れていること。そこにも、村上や奥川と同様の、高津監督の「意図」が見え隠れするような気がしてならない。

　これから、日本シリーズが控えている。後半戦で大事な試合を託したように、日本シリーズ初戦も奥川に託すのか？　高津監督の言動に「思いつき」はない。そこには必ず、彼ならではの深謀遠慮がある。すべては未来への伏線なのだ。

　奥川がプロ初完封を挙げたCSファイナルステージ初戦。中継を担当していたニッポン放送の実況アナウンサーは何度も「今日、神宮球場に訪れたファンは歴史の目撃者となります」という旨の発言を繰り返していた。これから起こることはすべて「歴史」となる。高津監督による伏線回収を楽しみに待ちたい。

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