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《CS最年少MVP》奥川恭伸の覚醒は鮮やかな伏線回収だった 「ある意味では特別待遇です」高津監督が語った“過保護”の理由
text by
長谷川晶一Shoichi Hasegawa
photograph byKiichi Matsumoto
posted2021/11/13 17:04
11月10日のCSファイナルステージ初戦、奥川恭伸はわずか98球で巨人を完封。ヤクルトの日本シリーズ進出に大きく貢献し、ダルビッシュ有の記録を塗り替えるCS最年少MVPを受賞した
「成績、数字がいいに越したことはないんですけど、僕はあまりその点は重要視していません。もちろん、負けがつくよりは勝ちがついた方がいいし、防御率も低い方がいいんだけど、一番大切なのは“この1年をどう過ごすか?”ということなんです。何試合投げて、どのくらいのペースで1年間を過ごせたかということがいちばん大事。打たれることもあるし、抑えることもあるとは思うけど、“目先のことに一喜一憂しない”ということは常に意識しています」
「目先のことに一喜一憂しない」と言いつつ、ペナントレース終盤の大事な場面を託し、CS初戦という結果が問われる場面で奥川を起用する。高津監督の奥川に対する期待と信頼、そして責任の重さが垣間見える発言だった。
「今よりも将来を」――常に先を見据えた選手起用
ルーキーイヤーだった2020年、奥川は故障のために出遅れ、一軍キャンプに招集されることはなかった。昨シーズン終了後、高津監督はこんなエピソードを教えてくれた。
「今だから言いますけど、今年2月の沖縄キャンプでも、最終クールには奥川を二軍キャンプから呼び寄せるつもりだったんです。それは、たとえ最終クールだけでも経験させておいた方が、“来年の沖縄キャンプのためになるだろう”と考えたからです。来年のキャンプをゼロからスタートするよりも、たとえ《0.5》でも、《0.1》でも、一度経験しておけば《0》よりはずっと意味があると思ったからです。結果的に故障があったんで、見送りましたけど」
昨年のチーム成績はどん底だった。それでも、高津監督は「まだ早い」という理由で奥川を決して一軍に上げようとはしなかった。ようやく、奥川がファンの前に雄姿を見せたのは、前述したように昨シーズン最終戦のことだった。このとき、高津監督は奥川にどんな言葉をかけたのか? そんな質問に対して、監督はこう述べている。
「試合前に“緊張してるか?”と声をかけて、“一軍の雰囲気を勉強材料としてしっかり感じて、来年に生かせるように”と言ったぐらいかな? 結果的には本人も悔しかったと思うし、僕も“もう少しいいピッチングを見られたらいいな”と思っていたけど、“これは時間がかかるぞ”とか“来年もしんどいな”とはまったく思わなかった。2歩目を踏み出すための、いい1歩目になったんじゃないのかな?」