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《CS最年少MVP》奥川恭伸の覚醒は鮮やかな伏線回収だった 「ある意味では特別待遇です」高津監督が語った“過保護”の理由
posted2021/11/13 17:04
text by
長谷川晶一Shoichi Hasegawa
photograph by
Kiichi Matsumoto
クライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージ初戦――。プロ2年目となる奥川恭伸はCS史上最年少となる20歳6カ月での完封勝利を収めた。98球、9奪三振。彼にとってはプロ初完投、初完封での偉業だった。これまで、公式戦での最長は7イニングで、9回はもちろん、8回のマウンドに立つこともこれが初めての経験だった。
昨年11月10日、シーズン最終戦でプロ初登板、初先発を経験した。そのときは3回途中、9安打を浴びて5点を失った。あれからちょうど1年後、奥川は見事なピッチングでチームに勝利を、そして勢いをもたらしたのだった。
「目先のことに一喜一憂しない」という育成哲学
奥川に対して高津臣吾監督は、中10日前後でマウンドに上げる独自の登板間隔を貫いた。昨年もシーズン最終戦まで一軍に上げなかった。今季も80球前後で早々に交代させることを徹底した。彼については細心の注意を払っていることは重々理解できる。それでも、あえて監督に問うたことがある。
――過保護すぎるのでは、と。
それに対して、高津監督はハッキリと過保護であることを認め、「ある意味では特別待遇です」と言い切った。
「確かに過保護って言えば過保護ですね。こんな感じでローテーションを回っている若手投手はなかなかいないですから(笑)。ある意味では特別待遇です。ただ、これは来年以降、中6日できちんと1年間投げられるように、5年後、10年後に真のエースになっているように、そのための段階を踏んでいるんだと思っています」
それ以降も何度も奥川について、質問を重ねてきた。そのたびに高津監督は「5年後、10年後に真のエースになっているように」と言い続けていた。今年の夏場には、「ヤス(奥川)は後半戦のキーマンだ」と明言しつつも、こんな言葉を残している。