フランス・フットボール通信BACK NUMBER
シェフチェンコは本物、フリットはレプリカ、ジダンはなし…ビッグクラブのミュージアムに見る《バロンドールの価値》とは?
posted2021/11/11 17:00
text by
フランス・フットボール誌France Football
photograph by
L’Équipe
選手にとって成功と偉大さの象徴でありプレステージでもあるバロンドールは、個人表彰でありながら選手が所属するクラブにとっても大きな名誉である。とりわけラテンのクラブにとってはそうで(クラブ別での最多受賞はバルセロナの12回。以下、レアル・マドリーが11回、ユベントスとACミランの8回が続く)、トロフィー(やレプリカ)はクラブのミュージアムの中央に飾られている。
『フランス・フットボール』誌7月号ではパトリック・ソウデン記者が、名門クラブがバロンドールをどのように讃え、来館者に展示しているかを伝えている。(肩書や年齢などは『フランス・フットボール』誌掲載当時のままです)
(田村修一)
ルイス・スアレス・ミラモンテスは、2015年に住まいのあるミラノからバルセロナへと旅立った。バルサのミュージアムが企画した、1960年に彼が受賞したバロンドールの55周年を記念しての行事に招かれたのだった。偉大なフェレンツ・プスカシュを破って自身が獲得したトロフィーを、スアレスはミュージアムに寄贈することを決めた。
《註:この年のバロンドールは、本来であれば欧州チャンピオンズカップ決勝で4得点を決めてレアル・マドリーの5連覇に貢献し、第1回インターコンチネンタルカップでも2ゴールをあげてレアルを世界一に導いたプスカシュが獲得するはずだった。ところが投票締め切りの前にバルセロナがレアルのチャンピオンズカップ6連覇を阻止したことで、若きゲームメイカーのスアレスがにわかに候補に浮上した。そんな話を、筆者(田村)は創設者のひとりであるジャック・フェランに聞いたことがある》
バロンドールの価値とは
ミュージアムのディレクターを務めるジョルディ・ペニャスが回想する。
「彼の妻と子供たちは、自分たちはこれまでずっとバロンドールの恩恵に与ってきた。だから今度はバルサのファンが称賛される番だと私に語った」
当時バルサの会長だったジョゼップ・マリア・バルトメウとキャプテンのアンドレス・イニエスタが、すべてのカタルーニャプレスとともにセレモニーに出席し、今日までスペイン生まれの選手として唯一のバロンドール受賞者を称賛した。スアレスが振り返る。
「僕がバロンドールを獲得したとき、FF誌の責任者がやって来て試合前にトロフィーを授与した。僕はマッサーに頼んで代わりに受け取ってもらった。それで終わりだった。あの頃は今と違って、何カ月も前から誰が勝つかをめぐって熱く議論することもなかった」