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<中日1位>ブライト健太《3年前の脱走事件》同級生4人が説得「足立区の実家まで追いかけて…」、歌ったケツメイシ『仲間』
posted2021/10/12 11:05
text by
高木遊Yu Takagi
photograph by
Yu Takagi
中日にドラフト1位指名された大型外野手・ブライト健太(上武大)。彼には「あの日がなければ、今はない」と感謝する出来事がある。
『ブライトがいない』
3年前の秋のある日、朝になると当時1年生だったブライト健太の姿が寮の部屋から忽然と消えた。
ガーナ人の父を持つブライトは、都立葛飾野高校(在籍時の最高成績は東東京大会2回戦)から群を抜いた身体能力とポテンシャルを買われて上武大に入学。しかし、2013年春に大学日本一に輝き、15年春から17年春までは5季連続全国大会4強入りした大学球界屈指の強豪校である上武大の環境は、ブライトがこれまでに経験してきたものとは180度異なっていた。潜在能力を買われて早くから一軍に抜てきされたが、当時のブライトにはそれも重荷となった。
「自分の中で“もうダメかもしれない”という思いが頭の中にずっとありました。高校の時と比べて緊張感が凄かったですし、今までと環境が違いすぎて自分のプレーがまったくできなくなっていました。打撃練習でも手が震えるほど、自分で勝手に追い込まれていました」
同期たちの前ではそんな姿を見せずに明るく振る舞っていたが、その環境に耐えきれなくなったブライトは、財布と携帯電話以外のすべてを部屋に残して脱走。足立区の実家に帰った。
「実際に会って話をしよう」
1年生はすぐに緊急ミーティングを開いた。
明るい性格で、すでに学年イチの人気者。荒削りながらも「当たれば飛ぶ」打球やバネを生かした俊足は、同期メンバーから見ても「いずれこのチームの中心になる」「目標の日本一のためには絶対に必要な存在」と皆が認めていた。
LINEで翻意を促そうという声もあったが、すぐに「それでは弱い。実際に会って話をしよう」と、総意は固まった。