他の選手が会心のインステップ・シュートを放つことに熱中する中、小柄なストライカー候補生は加藤に言われた通り、ゴールキーパーの重心や位置取り、嫌がるであろうことに思いを馳せながらシュートを繰り返した。ボテボテの当たりや、傍から見ればとんでもないミスでしかないシュートを繰り返した。

　当然、周囲からは訝しげな視線が向けられたが、佐藤は平気だった。

「リティさん（ピエール・リトバルスキー）からも、好男さんと同じようなことを言われてたんで。シュート練習で大切なのは、まず狙ったところに蹴ることだって。キーパーが止めやすいところ、止めにくいところを把握して、あとはいかにそこを狙って蹴れるか。インステップで芯食っても、キーパーの正面にいったら意味がないって考えるようになっていきました」

　加藤から、あるいはリトバルスキーからアドバイスを受けたジェフの選手は、もちろん、佐藤寿人一人ではない。にもかかわらず、佐藤寿人は一人しか出現しなかった。なぜか。本人の答がまたユニークだった。

中山雅史「自分は下手でよかった」

©︎Koji Asakura

「ゴンさん（中山雅史）が札幌で第一線から退かれた時、『自分は下手でよかった』とおっしゃってましたけど、ストライカーに関しては、ホントにそういう部分が大事だと思うんです。下手だから上手くなりたいと思う。もっと点を取りたいと考える。そこに工夫が生まれる。もちろん人によってでしょうけど、褒められすぎたら追求しなくなったり、学ぼうとする意志が薄れてしまう選手もいる。才能があるって期待されてたのに伸びなかった選手って、そういうタイプが多かったんじゃないかな」

　点を取るという仕事をする者にとって、最後の壁となる存在の意見や発想を学ぶことで、佐藤寿人はストライカーとしての道を歩み始めた。

　だが、Jリーグの舞台に立った時点での彼は、依然としてさして期待を集める存在ではなかった。U-20日本代表としてアルゼンチンで行なわれたワールドユースにも出場したが、田原豊、前田遼一に次ぐ控えのFWという立ち位置だった。

　本人に言わせればこういうことになる。

　この時点での佐藤寿人は、まだストライカーではなかったのだ、と。　（#2へ続く）

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