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《ドラ1候補から衝撃ホームラン》大学3年まで無名だった“ドラフト急浮上の男”ブライト健太(上武大4年)とは何者なのか?
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
posted2021/10/05 17:30
6月の全日本大学選手権でドラフト注目候補に浮上した上武大学のブライト健太外野手(4年・185cm85kg・右投右打・都立葛飾野高)
「監督さんにムリ言って出してもらいました」
「コールドスコアぐらいに点差も離れてたんですけど、このままじゃ負けられない! なんとかしなきゃ! って気持ちだけだったですね。ケンケンがどうこうじゃなくて、気がついたら、やってました」
いまは上武大4年生のブライト健太に当時のことを聞くとそう話した。スカッと笑っている普通っぽさが、なんとも「都立」だった。
「そんなに強くない都立だったんで、日大三高と試合してもらえるなんて、ないじゃないですか! 三高のピッチャーのボール、打ってみたくて、監督さんにムリ言って出してもらいました」
なんとも快活、なんとも天真爛漫。
「でも……」
と言って、しばらく間があった。
「あの場面を見てくれていた人がいたんですね」
どこで誰が見てるか、わかんないんだよ。
「ほんとですね、一生懸命やらないと」
そういうクサいセリフが、まるで嫌みじゃない。こちらの胸にじわっと染み込んでくる。
「同じ野球部でも、ぜんぜん違ってましたから」
「同じ野球部っていっても、高校とは空気感っていうんですか。もうぜんぜん違ってましたから」
実は、そこをいちばん心配していた。
楽しく野球をやりたいね、という部員たちが集い、特別な設備も「甲子園が目標!」みたいなモチベーションも乏しい……そんな普通の都立高校の野球部から、全国有数の逸材たちが300人近くも集まって、「全国」「プロ」を本気で頂点をめざす男たちの集団の中に身を投じて、果たして体力的にも精神的にもついていけるものなのか。
「何から何まで、違ってました。ルールの数、きびしさ、意識の高さと野球のレベルの高さ。でも、クリアしなきゃいけないと思って」
それ以上は語らなかったが、間違いなく過酷だったはずなのに、その表情には「陰り」のかけらも見えなかった。