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“10年以上”アーセナルファンの私が見た「冨安健洋22歳が30億円でも必要だったチーム事情」《(暫定)最下位というヤバい現実》
text by
山中拓磨Takuma Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2021/09/11 17:01
冨安のアーセナルでの初トレーニングセッション(9月10日)。アルテタ監督と話し込む姿も見られた
攻撃的な右サイドバックも見たかったが、現状のアーセナルを見るに守備のテコ入れも必要で「右サイドバックが誰も来ないよりは遥かに良い」といった少々複雑な気持ちで冨安獲得を受け止めたファンもいるようだ。
ただ、冨安が得点やアシストを量産するタイプの選手ではない以上、もし冨安が想定されている通り、守備力が高くビルドアップに貢献できる右サイドバック、といった立ち位置で起用されるのであれば、チーム全体の攻撃が停滞しているような状況ではそのような選手が高評価を受けるイメージは湧かない。
逆にチームの攻撃の仕組みさえうまくいっているのであれば、空中戦に強く、守備力のあるDFというのはむしろイングランドで好かれるタイプの選手であるように思える。
英メディアThe Athleticのマクニコラス記者は「冨安の獲得は少しバカリ・サニャを彷彿とさせるところがある」と述べていたが、確かにサニャもまた守備がうまくゴールキックのターゲットとなれるほどに空中戦に強い選手で、アシストや得点が多かったわけではなかったもののファンから高い評価を受けた右サイドバックだった。
稲本、宮市、浅野……とは異なる点
アーセナルのテクニカルディレクターのエドゥはインタビューで「実際に起用を決めるのはアルテタだが、冨安は即戦力となれる選手だ」と語っていたし、冨安の獲得はスカウティング部門よりもむしろ監督のアルテタ主導で行われたものだと報じられている。
そう言った意味では、冨安は監督とテクニカルディレクターというチーム編成を担う2人から高評価を受けているはずで、アーセナルで出場機会が得られないのではないか、という心配はあまり必要ないだろう。
むしろ今季いきなり台頭し、レギュラーの座をつかみ取ることも十分考えられる。
アーセナルの低迷を示しているともいえるのかもしれないが、この点が稲本潤一や宮市亮、浅野拓磨といったアーセナルに所属した選手たちと冨安がおかれた立場の最も異なる点だ。
上の選手たちは皆、レギュラー争いに食い込めれば成功、という挑戦者の立場でプレイしていたが、冨安健洋はかつての栄光を取り戻そうと苦心する名門の救世主となることを期待されているのだ。
アーセナルでプレイする選手にはいつだってプレッシャーがかかるものだが、冨安健洋には過去にアーセナルに在籍した日本人選手たちとは全く異なる種類のプレッシャーを背負ってアーセナルでプレイすることになるに違いない。
いち日本のアーセナルファンとして、冨安健洋にはアーセナル復権のキーマンとなってくれるような活躍を期待したい。