1年生で輝いた“バンビ”が味わった重圧

　1977年夏、東邦の1年生投手・坂本佳一は中学3年生の夏休みに初めて硬式球を手にしたという奥手だったが、監督に素質を見出され地方大会からエースとなり甲子園に出場。甲子園でも勝ち進む。

　東洋大姫路との決勝戦では延長10回にサヨナラホームランを打たれて負け投手になったが、少年のような体つきであどけない表情を見せる坂本は「バンビ」と呼ばれ、大人気を博した。しかしバンビ坂本は以後、甲子園に出ることなく、大学でも活躍できず、プロにも進まなかった。

　一般企業に勤める社会人になった当人は「甲子園以後、"あの坂本"と言われることを意識してしまった」と語っている。プレッシャーは相当なものだったようだ。

甲子園から7年後、1985年撮影の「バンビ」こと坂本　©Kazuhito Yamada

　SNSなどが発達した現在では、1年生で「甲子園のヒーロー」になると――これまで以上にその後の人生が変わってしまうことも多い。野球選手として期待されるのは当然の話としても、メディアがプライベートまで追いかけたりするのはかなり異様だ。

　高校生は心身ともに発展途上であり、成績も生活面でも波がある。それを自ら乗り越えてこそ成長があるが、有名になってしまうと、外野からの批判の声も厳しくなる。そうした反響がネガティブに作用することもあるかもしれない。

　それに高校球児の未来は、プロ野球だけではない。社会人として他の道に進む可能性もある。1年生で活躍したからと言って、将来の進路が決まるわけではないのだ。

　高校野球ファンにとって「1年生選手の活躍」は、楽しい話題ではあるが、相手は生身の人間、しかも成長途上の15歳だ。見守る姿勢が一番重要だろう。