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「律、お前は天才とちゃうで」「やることはガンバと全く一緒やねん」中学生の堂安や谷晃生、林大地を育てた名伯楽が語る秘話と今
text by
下薗昌記Masaki Shimozono
photograph byJFA/AFLO
posted2021/08/03 06:01
それぞれの道を経て五輪の舞台で戦う堂安律と林大地。育てた名伯楽もまた今なお奮闘している
エースナンバーを託される堂安は、ガンバ大阪のアカデミーから世界に羽ばたいた逸材の一人だが、鴨川さんの存在がなければ全く違うサッカー人生を過ごしていたはずだった。
ガンバ大阪ユース時代、まだ2種登録だった頃の堂安は、茶目っ気まじりにこんなエピソードを口にしたことがあった。
「ジュニアユースを選ぶ時、ガンバとグランパスで迷ったんですけど、ガンバでプレーする夢を見たのでガンバに決めました」
「お前はアキの足元にも及ばへんって」
当時、ガンバ大阪と名古屋グランパス、JFAアカデミー福島、そしてセレッソ大阪からも声がかかっていたという堂安だが、鴨川さんのアドバイスもあって吹田を本拠地とする名門クラブでのプレーを選択する。
しかし、当時の鴨川さんの評価はシビアだった。
「律はその年代では抜けていたよ。ただ、俺は家長とか宇佐美とか見て来たから、それほどでもないなって思ってた」
鴨川さんの30年を超える指導者キャリアのなかで、一目でプロになると分かったのは稲本潤一と家長、宇佐美の3人だけだったという。ダイヤの原石なのかどうかも、まだ分からないレフティに対しての指導は手厳しいものだった。
「お前は天才とちゃうで」
「お前はアキ(家長の愛称)の足元にも及ばへんって」
関西では名の知られた逸材に対して、鴨川さんはあえて厳しい言葉をかけたが、当時から際立っていたのは強烈なパーソナリティと勝負強さだった。
グループリーグ第2戦のメキシコ戦ではPKをど真ん中に蹴り込み、今大会初ゴールをゲットした堂安だが、鴨川さんが明かしたエピソードを聞けば、その強気なキックも納得だ。
「アイツは雑草魂も謙虚さもある」
2013年3月、ガンバ大阪のジュニアユースはスペインに遠征。中学3年生に進級する直前の堂安らチーム全員が、練習の準備を怠っていたとして罰走を命じられたことがあった。その日の夜に待っていたのは重要な大会初戦。当時も背番号10を託されていた堂安は、鋭い眼光で、臆することなく指導者にある提案を持ちかけるのだ。
「僕らが悪いんで走ります。ただこの大会はいいコンディションでやりたいんで、日本に帰ってから走ります」