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「勝利かもしくは死を」96年目で初の降格危機…チリの名門コロコロの“商業主義”が招いた低迷とサポーターの過剰な愛憎
posted2021/06/16 17:00
text by
ブラディミール・クレセンゾVladimir Crescenzo
photograph by
L’Équipe
コロコロ・サンチャゴとクラブの伝説ともいえるストライカーのカルロス・カセリーについては、本連載(2020年8月30日、『スポーツ選手は政治とどう関わるべき? チリの、あるサッカー選手の英雄的人生。』)でも紹介したので覚えている読者も多いかと思う。
クラブ創設は1925年で、チリリーグ優勝32回は国内最多。チリで唯一のコパ・リベルタドーレス優勝チーム(=1991年。トヨタカップ=インターコンチネンタルカップではレッドスター・ベオグラードに0対3で敗北)は、チリで最も人気の高いチームでもある。1999年と2008年に行われた調査によれば、チリのサッカーファンの45%がコロコロのサポーターであった。
そのコロコロにとって、2020−21シーズンは悪夢だった。リーグは18チーム中16位で残留プレーオフを戦い、1部残留こそ果たしたもののクラブの内外で緊張が高まった。クラブの意志決定権を持つ株主が指針を誤り、利益追求にばかり走っているとサポーターは糾弾する。南米屈指の名門クラブでいったい何が起こっているのか。『フランス・フットボール』誌3月30日発売号でブラディミール・クレセンツォ記者がレポートしている。
(田村修一)
国民的人気クラブの非常事態
コロコロは、チリのモニュメントともいうべきクラブである。1933年のチリリーグ創設以来90年にわたり、一度として2部に陥落したことがないチリで最も人気の高いクラブでもある。そのコロコロが、2月17日にウニベルシダード・デ・コンセプシオンをプレーオフで1対0と下し、かろうじて降格を免れたときには国民の多くが胸をなでおろした。チリで最も人気の高いクラブの非常事態。サポーターたちは「勝利かもしくは死を」という横断幕を掲げて怒りとともに決戦に臨んだのだった。
サポーターの怒りの矛先が向いたのは、低調なパフォーマンスしか見せられなかった選手ばかりではなかった。2005年に定められた法律で、クラブのトップチームは株式会社により運営されることが義務づけられたことで、親会社となったブランコ・イ・ネグロ(以下ByN)もまたサポーターから痛烈に批判された。不振の原因は、コロナ禍によるリーグの中断やその間の活動停止である以上に、クラブ形態の変化による構造的なものであったからである。