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「今の自分には価値がない」瀬戸大也が初めて語った、スキャンダルへの悔いと妻の言葉
text by
田坂友暁Tomoaki Tasaka
photograph byKosuke Mae
posted2021/05/26 11:03
自身にどんな変化があったのか、瀬戸大也が騒動後初めて語った
「人間的な価値が下がったから、気持ちは少し楽に」
騒動後、瀬戸は少しずつ周囲の支えによって自分の強さを見直し、作り直していった。それまでの強さは、自分勝手に積み上げていったもの。指で押せば簡単に崩れる脆弱な強さだった。だが、今度は違う。多くの人たちの支えという強固な土台の上に作り上げる強さだ。自身を支えてくれる、チーム・ダイヤについてこうも語る。
「本当にこのチームが、自分の能力を最大限に引き出してくれています。まだ通過点ですけど、五輪に向けて、この選択は間違ってなかったと思っています」
応援してくれる人たちの思いをすべて背負い、共に歩んでいくこと。それらがすべて、競技の結果にもつながっていく。人としての強さの本当の意味を、人間性とは何かを瀬戸は今回知ることができたと言う。
「人間的に成長する、というのは、瀬戸大也みたいになりたい、って思ってもらえることだと思うんです。でも今の自分には価値がないというか、尊敬なんてしてもらえるような人間じゃないと思う。正直に言うと、人間的な価値が下がったから、気持ちは少し楽になりました。無理をして良いことを言う必要もないし、必要以上に自分を大きく見せることもない。だから、まずはアスリートとして結果を残して、自信を取り戻したい。そのうえで、魅力的な人間になるにはどういう言動をしていくことが必要なのかを考えつつ、でも見栄を張ることなく、ありのままの自分を皆さんに見せていきたいと思います。そして、もっと周囲の人たちに認めてもらえるような人間になっていきたい」
水泳という武器がなくなったとき
そういったなかで、五輪というものの位置づけにも変化が起こり始める。今までの瀬戸にとっては、五輪は人生のすべてだった。自分の人生を懸けて臨み、そこで頂点に立つことだけが目的だった。だが、今はあくまでひとつの目標であり、人生の目的ではないと、きっぱりと口にする。
「両親から、騒動後に『子どもたちに胸を張っていられる父親でいなさい』と言われました。そう言われたとき、今は全然、胸を張れないな、って。水泳という武器がなくなって人間性だけが残ったとき、魅力的な人じゃないと家族に対して胸を張れないな、と思ったんです。水泳をなくしたら、人間・瀬戸大也には何が残っているのか。それをこれから積み重ねていかなければならないんだと思います。子どもたちが大人になった時に、こういうことがあっても『自慢のお父さん』と言ってもらえるように、成長しないといけない」