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「大学ベストって…どういう意味?」日大→実業団で日本代表も経験…“現役時代は水泳一筋”東大水泳部に就任の新コーチが耳にした「衝撃の一言」
posted2025/11/25 11:02
日大時代は日本代表の経験もある押切雄大。2022年から東大水泳部のコーチを務めるが、非強豪校ということもあり当初は多くのカルチャーショックがあったという
text by

別府響Hibiki Beppu
photograph by
Keiji Ishikawa
「俺、今回“大学ベスト”だったわ――」
2022年に東大水泳部のコーチになった押切雄大は、就任直後、部員たちの話に登場した聞きなれない単語に引っ掛かりを覚えた。
「大学ベスト? 自己ベストじゃなくて? それ、どういうこと?」
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不思議に思ってその選手に尋ねてみると、要はこういうことだった。
東大水泳部の多くの選手は、もちろん小中高のどこかで競泳競技を経験している学生が多い。一方で、中学や高校の序盤までかなり力をいれて競技に打ち込んでいた選手であっても、そのほとんどが受験のために遅くとも高校生の半ば頃には競技から勉強にウエイトを移してしまう。
そして、競技に打ち込んでいた時代に出したベスト記録を「生涯ベスト」「自己ベスト」と呼び、東大に進学後に出したベスト記録を「大学ベスト」と呼んで区別していたのだ。
東大で「自己ベストなんて出るわけない」のワケ
東大受験の勉強に時間を割いた以上、当然ブランクは大きい。しかも、ここは決して強豪とはいえない国立大の水泳部だ。かつて競技に熱中していた時の記録など、抜けるはずがない。
この環境で頑張ったところで、生涯のベストなど出せるはずがないに決まっている。じゃあせめて、大学に入って以降のベスト記録を更新しよう――「大学ベスト」という言葉には、東大生たちのそんなある種の諦観が見え隠れしていた。
傍から見れば、彼らがそう考えるのも納得できる面もある。大学の体育会水泳部といえば、強豪大にはそれこそオリンピアン予備軍のような選手も多い。受験勉強に時間を割いた自分たちがどんなに頑張ったところで、そんな選手たちと同じ土俵に上がることなど想像できない。その中で昔の自己ベストをどこまで追いかけるべきなのかと悩むのは、至極まっとうな考えにも見える。
一方で、押切はそうは思わなかった。むしろ「なんじゃそりゃ」と驚愕したという。
「当たり前ですけど『ベスト』という言葉は自分が持つ中で最も速い記録を指すものじゃないですか。『大学でのベスト』という限定は変だろうと。大学に入ったからといって、生涯のベスト記録を更新できないわけがない。高校時代から世界大会に出ているような極まった選手ならともかく、普通はあれだけ練習しているんだから自己ベストが出ないはずがない。なのに、勝手に自分たちで天井を作ってしまっていた」

