酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
記録で見る日米球界「ノーヒットノーラン最新事情」 大リーグでの異常発生と阪神・西純矢らの“無安打降板”に浮かぶもの
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byGetty Images
posted2021/05/24 17:01
マリナーズ戦でノーヒッターとなったタイガースのターンブル。ほどなくヤンキースのクルーバーも達成した
工藤監督と落合監督が日本シリーズで下した決断
これまでは「記録のために」は球数が嵩んでも、安打を打たれるまで続投させることが多かったが、昨年の日本シリーズ第3戦では、ソフトバンクのマット・ムーアが巨人相手に7回まで93球、2与四球、被安打0だったが、工藤公康監督は8回からリバン・モイネロをマウンドに送った。
日本シリーズでのノーヒットノーランとなれば史上初。MLBでは1956年のワールドシリーズで、ヤンキースのドン・ラーセンがドジャースを相手に史上唯一の完全試合を達成したが、それに匹敵する大記録になったはずだ。
しかし工藤監督は個人記録よりも「勝利の方程式」を優先したわけだ。
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おそらくは2007年日本シリーズで、日本ハム相手に8回までパーフェクトだった山井大介を降板させた中日・落合博満監督の判断を踏襲したと思われるが、負けられない試合の中で個人記録よりチームの勝敗を優先させたのだった。
プロ初登板の阪神・西純矢は5回被安打ゼロも
今年5月19日の阪神―ヤクルト戦では、デビュー戦となった西純矢が4つの四球を与えたものの被安打ゼロで5回を投げ切ったが、矢野燿大監督は、6回から馬場皐輔をマウンドに送った。
初登板ノーヒットノーランとなれば、1987年8月9日、巨人相手に達成した中日、近藤真一以来の大記録だが、西は5回の時点で87球を要していたし、点差は1点で、続投させれば打ち崩される可能性が高いと見て、矢野監督は西を交代させた。
適切な判断だと思うが、こうした「個人記録よりもチームの勝利」を重視する動きは強まるだろうと思われる。
このようにノーヒットノーラン達成の条件は、日米ともに狭まっていると考えられる。では、それにもかかわらず、なぜ今年のMLBでは参考記録を含めて7例も誕生したのだろうか?
筆者は、その背景にMLBの「アンリトゥン・ルール(不文律)」が影響している可能性があると感じる。