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マルケスにしかできない“神業級”の転倒…「今日は最高のマルクではなかった」の言葉に滲む、王者復活への期待感
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2021/05/19 17:03
前戦スペインGPでは予選14位だったマルケスが、フランスGPでは予選6位。怪我の回復は順調な模様だ
いまのMotoGPマシンは、1000ccで250馬力以上。その猛烈な加速スピードに加え、ウイングが装着されたマシンの切り返しは想像以上に重い。MotoGPライダーに求められる体力はMoto3やMoto2クラスとは格段の差であり、いまのマルケスの回復状況は「ウエットになると楽に走れる」という段階。本調子にはほど遠い。
加えて、ホンダRC213Vが車体のバランスに苦しんでおり、第4戦スペインGP、そして今大会とマルケスは転倒が続いた。本来の走りが出来る身体とマシンなら防げた転倒かも知れないが、いまは難しい状況。マルケスの最大の武器でもある肘と膝をつかっての転倒回避走法も、肘と膝がつく前に転倒するケースが多いからだ。マルケスの復帰後初表彰台、初優勝は、マルケスの体力回復と同時にホンダのマシンの改良が必要となる。
今日は最高のマルクではなかった
2017年のチェコGPで、マルケスはウエットからドライになる難しいコンディションで素晴らしい走りで優勝した。以来、4年ぶりの“フラッグ・トゥ・フラッグ”。その再現を期待したのは僕だけではないだろう。マルケスは「レースウイークのパフォーマンスには満足しているが、今日のレースには満足していない」と語った。なぜなら「今日は最高のマルクではなかったからだ」と。これまで何度も見せてくれた“フラッグ・トゥ・フラッグ”の破天荒な走りは、今大会初めて転倒で幕を閉じた。
しかし、グリッドに並んだときの青空から一転、強い雨と強風の中でトップを走ったマルケスの姿は、やっぱり最高である。このとき、勝ちたいというマルケスの強い気持ちは、誰にも負けていなかったと思ったからだ。