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MotoGP絶対王者マルケスが初めて涙を見せたワケ ケガからの復帰で完走7位、若き挑戦者を迎え撃つ怪物の底力
posted2021/04/25 17:00
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph by
Satoshi Endo
アルガルベ・インターナショナル・サーキットで開催された第3戦ポルトガルGPにレプソル・ホンダのマルク・マルケスが復帰した。結果は予選6位、決勝は優勝したファビオ・クアルタラロから13秒差の7位だった。
レース終了直後に、思いがけない出来事が起きた。
戦いを終えてピットに戻ってきたマルケスが椅子に座ると目頭を押さえ涙を流す。その後に行われたテレビのインタビューでも、「湧き上がる感情を抑えきれなかった」とあふれる涙にインタビューを中断した。
08年に15歳で125ccクラスにデビューしてから14年目のシーズン。通算8回のタイトルを獲得してきたマルケスが、人目をはばからず、こんな風に涙を流したのは初めてのことだった。
マルケスは、喜ぶときは見ている者が幸せになるほどうれしそうにする。一方、辛いとき、苦しいときに涙を見せたり周囲の人を不快にさせることはなかった。例えば、メカニックのミスで勝てるレースを逃したときも、ミスをしたメカニックを気づかう。「どうしてそんなことが出来るの?」という問いかけに彼は常々「終わってしまったことは考えても仕方がない。常にポジティブなことを考えるようにしている」とコメントしてきたからだ。
これはどんな競技にも言えることだが、技術的にどんなに優れていても、自分の感情をコントロールできない選手は自分の力をしっかり発揮することができない。しかしマルケスは、類い希な身体能力に加え、強靱なメンタルで無敵の強さを発揮してきた。
強靭な王者が初めて涙を見せたわけ
そのマルケスが、この日、涙にくれたのだ。
怪我をした昨年7月からの9カ月間の長い復帰の道のりを経て、15レースぶりの復帰戦でマルケスは「予選も決勝も思ってもいない結果だった」と語った。3度の手術を受けて復帰できるかどうかという不安との戦い。そして長い治療とリハビリ期間の辛かった思いが、このとき一気にこみ上げたのだろう。
レースを終えたマルケスは、チームのリリースでこう語った。