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マルケスにしかできない“神業級”の転倒…「今日は最高のマルクではなかった」の言葉に滲む、王者復活への期待感 

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遠藤智

遠藤智Satoshi Endo

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photograph bySatoshi Endo

posted2021/05/19 17:03

マルケスにしかできない“神業級”の転倒…「今日は最高のマルクではなかった」の言葉に滲む、王者復活への期待感<Number Web> photograph by Satoshi Endo

前戦スペインGPでは予選14位だったマルケスが、フランスGPでは予選6位。怪我の回復は順調な模様だ

 その中でマルケスは一気にリードを広げる。しかし、首位に立って4周目(レース周回8周目)の最終コーナーで転倒する。再スタートを切るが、この時点でマルケスは18番手にポジションダウン。そこから猛列に追い上げたが、11位まで順位を挽回した18周目の6コーナーで2度目の転倒を喫し、リタイヤに終わった。

 転倒した時点でトップとマルケスの差は約52秒だったが10周して42秒差に縮めた。トップよりも1周で1秒速い計算になる。すでに優勝争いから脱落してリスクを負える状況だったが、よっぽど悔しかったのだろう。2度目の転倒は、グラベルで起き上がったあとにマシンを振り向きもせずに歩き出した。転倒した後はどんな状況でもマシンに駆け寄り再スタートを切ろうとする意思を見せるマルケスだけに、これもまた、印象に残るシーンだった。そして、ピットに戻ったマルケスを映し出した映像は、復帰してから初めて見せる悔しい表情であり、持って行き場のない怒りを感じさせるものだった。

転倒してなお発揮されるマルケスの“神業”

 転倒の理由についてマルケスは、こう語る。

「最初の転倒はウエットでは起こり得るもの。タイヤが冷えてしまったのかもしれない。でも、2度目の転倒は、転倒すべきではなかったし、ここから僕は学ばなければならない。路面コンディションに集中出来ていなかったのかもしれない。なぜなら、(再度)スリックを履いたマシンに乗り替えることを考えていて、6コーナーに速く入りすぎてしまったからだ」

 走りに集中できていなかったというよりも、レインタイヤからスリックタイヤを装着したマシンに乗り換えるタイミングを考えていたのだという。マルケスにしか出来ないと言ってもいい“神業”だ。「乾き始めの細いライン上をスリックで猛追撃することを考えていた。本当に残念」と語るマルケス。復帰して最初の勝てるチャンスだっただけに、落胆ぶりも大きかった。

 それにしても、怪我から復帰したマルケスが、これほど苦労するとは思ってもいなかった。しかし、冷静に考えれば、それは当然のことなのかも知れない。昨年7月に右腕上腕を骨折してから3度の手術を受けた。本格的なトレーニングを開始したのは今年の3月。半年以上も動かせず、ひと回り細くなった右腕が本来の状態に戻るには時間がかかる。しかも、右腕は、ブレーキにアクセルワークと、ライディングにもっとも重要で繊細な動作が求められる。

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