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「あいつにはパスを出すな」チーム内の批判を覆して… “殺気が消えた”20歳ビニシウスがマドリーで輝いている理由
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph byGetty Images
posted2021/04/18 17:01
リーグ戦ではバルセロナとの“エル・クラシコ”を制し、CLではリバプールを下して準決勝進出。いまや2冠獲得も視野に入る中、その上昇気流を牽引しているのがビニシウス・ジュニオールだ
マドリディスタの“ため息”
与えられたチャンスで存在価値を示そうとするあまり、強引な縦への仕掛けが目立つようになる。
まさしく速さに速さを上書きするようなドリブルは、ハマれば相手に強烈なダメージを与えた一方で、エゴイスティックに浮き上がり、周囲との連携のズレを招くケースも少なくなかった。
最大のネックは、やはり決定力の欠如だった。
ドリブルでマーカーを抜き去ることに愚直なまでにすべての力を注ぐから、どうしてもフィニッシュの局面で精度を欠いてしまうのだ。
絶好機を逸し、顔を覆うビニシウスとマドリディスタのため息は、いつしか本拠地サンティアゴ・ベルナベウの定番セットとなった。
クラシコで巡ってきた“幸運”
それでも昨年3月、クラシコの大舞台で、遂にビニシウスはサポーターに特大の歓喜をもたらしてみせる。
リオネル・メッシのクラシコ史上最年少得点記録を更新する19歳233日でのゴールが、値千金の決勝点となったのだ。左サイドを抜け出し、ニアサイドを撃ち抜いたシュートは、ブロックに入ったジェラール・ピケの足に当たってコースが変わり、ネットを揺らした。
なぜか吸い込まれるようにシュートがGKの正面を突き、ポストを叩いていたそれまでの不運が、これで振り払われるかに思われた。
「あいつにはパスを出すな」
しかし、この一撃をもってしてもビニシウスの呪縛は解けない。
直後のコロナ禍によるリーグ戦中断にも水を差されただろう。結局このシーズンはスタメン出場12試合、ゴールは3つにとどまっている。
3年目の今シーズンも、ラ・リーガで4、5節に連続ゴールを奪うなど好スタートを切ったものの、定位置確保への想いの強さがマイナスに働いたのか、次第に独善的なプレーが目につくようになる。
チャンピオンズリーグ(CL)のグループステージ第2節、ボルシアMG戦のハーフタイムには、こんな事件もあった。
ボールを持ちすぎて効果的なパスを供給しないビニシウスに苛立ちを募らせたカリム・ベンゼマが、ピッチへと向かう通路で左SBのフェルラン・メンディに歩み寄ると、こう耳打ちしたのだ。
「ビニシウスは好き勝手にやっている。あいつにはパスを出すな」
さらに、スタメンを外されたことに不貞腐れた態度をとって、ジダン監督の不興を買ったこともある。年明けにはシーズン終了後の放出の噂も浮上した。