甲子園の風BACK NUMBER
「力が入らなくて『やばいな』」 センバツNo.1エース畔柳亨丞の異変と“140km超なし+変化球68%”の一部始終
text by
間淳Jun Aida
photograph byKyodo News
posted2021/04/01 06:00
2番手投手としての登板になった畔柳。状態が万全でなかったことを自覚していた
「いけるか。準備ができたら……」
「5失点となって、中盤で流れを止めないと一方的な展開になってしまうので、当初の予定を早めてあの回でのスイッチになった」
畔柳の準備はできたのか。高橋監督は畔柳への伝言を託した背番号「18」の大矢をブルペンへ走らせる。
「いける状態になったら柴田と交代する」
そして、ベンチに戻ってきた大矢を、すぐにブルペンへダッシュさせる。
「いけるか。準備ができたら教えてくれ」
畔柳が両手で大きく丸をつくるのを確認した指揮官は、絶対的エースをマウンドに送り込んだ。
もう1点も与えられない。2アウト二塁。畔柳は、準々決勝の智弁学園戦で先頭打者本塁打を放った幸修也と対する。初球は139キロのストレートでファウル、2球目のスライダーでセンターフライに打ち取りピンチを脱した。
「準備をしている際から肘が重くて」
しかし、畔柳は異変を感じていた。
「思ったより疲労が抜けていなくて、準備をしている際から肘が重くて力が入らない状態だった」
高橋監督から「畔柳が投げるとチームが落ち着く」と全幅の信頼を寄せられている唯一無二の存在である。畔柳は5回、明豊のクリーンアップを三者凡退に切ってとり、6回は三者連続三振を奪った。流れを引き寄せ、打線が応える。5回に1点を返すと、6回も2点差に迫って、なおも2アウト二塁のチャンスで次打者は畔柳。試合の流れは明らかに中京大中京だった。
ところが、代打が送られた。
そして、大会本部の医師や関係者が小走りで、中京大中京のベンチに向かった。畔柳はベンチ裏で、選手のコンディションをチェックする理学療法士に体の状態について説明していた。チームは続投が難しいと判断し、2回1/3を無安打に抑え、5つの三振を奪っていたエースの交代を決めた。