野ボール横丁BACK NUMBER
中京大中京のランニング本塁打「絶対、捕ってやろう」ダイビングキャッチし損ねた専大松戸レフトはあの時…【センバツ】
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byKYODO
posted2021/03/25 15:45
7回裏、決勝の2点ランニングホームランを放ち喜ぶ中京大中京の櫛田理貴
「絶対、捕ってやろう、と。(芝が)雨も含んでいたんですけど、勝負に行きました」
吉岡が左にはめたグラブをライン寄りにぐいと伸ばしながらダイビングキャッチを試みる。しかし、ややスライスしながら伸びてきた打球は、吉岡のグラブの数十センチ前でバウンドし、グラブの下をすり抜けていった。
「いつもだったら、グラブとかに当たって、前に落とせるんですけど……」
「こみ上げてくるものがありました」
芝生が水分を含んでいたため、思ったよりもボールが弾まなかった。
打球は重くなった芝で勢いを失いながら、レフトの最深部へ。センターがバックアップしていたものの、打者走者の櫛田は、まったく足の回転を緩める気配がない。
吉岡が思い出す。
「(櫛田が)三塁を回った瞬間は、こみ上げてくるものがありました」
二塁走者に続いて、櫛田もホームイン。ランニングホームランとなり、一挙に2点を失った。
0−2のまま迎えた9回表の攻撃中、吉岡はすでにベンチで涙を流していた。
持丸はこう慮った。
「吉岡は判断ミスだと思ったんじゃないかな。でも、あれぐらい積極的でいい。私は後悔はしていません」
だが、違った。4番を任されていたものの、吉岡は第1打席で四球、残りの3打席はいずれも凡退していた。しかも、8回は自分が最後の打者だったため、こう願っていたのだ。
「もう回ってこないかなと思いながらも、何としてでも、もう一回、自分に回してくれと思っていました。畔柳君を打つために、この冬、がんばってきたのに、ここまでまだ自分のバッティングができていなかった。何としてでも勝ちたい、そう思ったら、感情が爆発してしまいました」
吉岡は、あのプレーを悔いていたのではない。自分のバッティングで、失敗を取り返してやろうと思っていたのだ。