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【神対応が話題】飯伏、棚橋との“夢の3ショット”でオカダが感じた「地獄とプライド」 地震直後の新日に思ったこと
text by
原壮史Masashi Hara
photograph byMasashi Hara
posted2021/03/25 17:02
飯伏幸太(左)と棚橋弘至(中央)との夢の3ショットを実現させたオカダ・カズチカ。プロレスラーとしてのプライドを見せた
前代未聞の3冠王状態になってみせたジェイ
次に動いたのはジェイだった。
いつの間にか本部席からIWGPヘビー級、IWGPインターコンチネンタル、NEVER無差別級のベルトを盗み、前代未聞の3冠王状態になってみせた。まさに火事場泥棒であり、本来であればブーイングの対象になる行動だが、観客はその姿を見て笑みを浮かべた。
ジェイがこんな時でもジェイだった、ということで思わず笑ってしまった、あるいは、二度とないであろう貴重な姿を見ることができたから嬉しかった、というのもあるが、最大の理由は、急に現実に引き戻されて不安にさせられる状況の中で、ジェイのその行動が自分たちを結果的にプロレスの世界に引き留めてくれたからだった。それが嬉しかった。こういうことを当たり前にやってくるから、バレットクラブのトップでありながら、なぜか憎めない魅力的な存在なのだ。
最高の一体感を生んでいた棚橋のエアギター
安全確認が行われることになりバレットクラブは引き上げたが、飯伏、棚橋、オカダ・カズチカの3人はリングの周りに留まった。
観客だけでなく、イギリス出身で地震の経験がほとんどないゲイブリエル・キッドのことも安心させる飯伏、最初にリングに上がって安全を示したオカダ、とそれぞれのやり方で観客の気持ちと共に中断の時間を過ごしたが、こういう時の主役はやはり棚橋だった。
ファンに不安を感じさせないように1ブロックごとにポーズをとってセルフ撮影会を開催しただけでなく、リングに戻ってからはエアギターも披露した。突然のことすぎて音楽はすぐには流れなかったが、ファンの手拍子のみで奏でるそれは、これまで幾度となく披露してきたエアギターの中でも最高の一体感を生んでいた。プロレスが盛り上がるために大事なのはファンとの一体感だが、こんな時でもそれを生み出してくれるからこそ棚橋はエースなのだ。
こうして会場全体はポジティブな空気に包まれていったが、いつ結論が出るのかわからない中、リング上でやれることはなくなっていった。飯伏が腕立て伏せを披露したが、ネタ切れ感は否めなかった。それでも、ここまで十分やってくれた、という優しい雰囲気があった。