井原　この年、代表経験のある岩下敬輔が入ってきたんです。彼なら冨安をリードしてくれるだろうと。僕自身、若い頃に柱谷哲二さんと組んで、いろんなことを吸収させてもらったんですけど、同じように冨安も、岩下から守備のノウハウや駆け引きなどを学び、プレーの幅を広げられるんじゃないかと思いました。今の若い選手はアカデミーで理論をしっかり叩き込まれているんですけど、セオリーだけでは対応できないことがたくさんある。そういうことを岩下から学んでほしかったし、コンビを組む選手と補完関係を築くことによって、高いアベレージの守備ができるようになる。そんな思いで岩下と組ませていました。

――以前、冨安選手に話を聞いたとき、「井原さんからは気持ちのことをよく言われた」と。あと、「すごく覚えているのは、『飛び込みすぎるな』とよく言われたこと」と言っていました。

井原　DFは弱気になるといいプレーが絶対にできないので、特に競り合いや1対1では気持ちを強く持ってやるのが当たり前だと。そんなことを冨安に対して強調したと思います。「飛び込みすぎるな」というのは、彼はチャレンジをするタイプのセンターバックで、常にインターセプトを狙っていた。でも、狡猾なストライカーになると、インターセプトを狙う勢いを利用して入れ替わろうとしてくるから、そうした駆け引きに負けるな、という意味で「飛び込みすぎるな」と言った覚えがあります。

　思い出すのは名古屋グランパスの（ロビン・）シモヴィッチとのマッチアップですね。2017年にホームで名古屋と対戦したとき、冨安がシモヴィッチに身体を預けすぎて、その力を利用されてターンされ、シュートを決められた。でも、12月のJ1昇格プレーオフ決勝では、冨安は3バックの真ん中で出場してシモヴィッチを完璧に抑えたんです。1年の集大成じゃないですけど、成長した姿を見せてくれました。

井原が印象的だと語った̪シモヴィッチとのマッチアップ（2017年シーズン、J1昇格プレーオフで）　©J.LEAGUE

「僕は海外にチャレンジするチャンスなんてなかった」

――その名古屋戦後、ベルギーのシント＝トロイデンに移籍しました。冨安選手の海外移籍の話を聞いたとき、井原さんはどう感じました？

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