左足を踏み込んだ瞬間、左の腰があっさりほどけて、胸をこちらに見せてしまう。ここでもう1秒、軸足で粘れて半身（はんみ）の姿勢が保てれば……バッティングと同じで、体の左右の割れがほしい。しっかりした割れが作れれば、ねじりが効いて、まだまだスピードも球威も増してくる。

　この春、150キロ台を出したことがあるそうだが、今日は140キロ前半がアベレージ。その代わり、真タテに落下するカーブとチェンジアップ、スプリットをカウント球に使って打者を追い込む「技術」を見せてくれた。

　速球よりむしろ変化球の時のほうが、気分よさそうに自信満々に腕を振る。パワーよりピッチングセンスが光る投球内容だ。

　きれいなバックスピンの快速球系の球質は、見映えはするのだが、まともにバットが当たったら飛ぶんだよな……と思った途端、怪力そうなTDK（秋田県にかほ市）の8番・冨木崚雅左翼手（183cm88kg・右投右打・東北福祉大）のフルスイングが、まともに当たったからたまらない。あっという間に、レフトスタンドへ持っていかれてしまった。

　走者を出すと、130キロ後半に減速してしまうのも、まだ体の芯が「大人」になっていないせいだろう。 一塁けん制も、両手を一度下に下ろすのがアクションロスになっているし、「実戦力」の点で勉強することはいくつかありそう。しかし、その不足している要素こそが「伸びしろ」だ。  

　何より、打者に集中できていて、気力充実が伝わってくるマウンドさばきがいい。快適な環境で野球と向き合えているのだろう。この先が楽しみだ。

（2）165cm佐藤開陸「あいつめちゃ度胸いいっすから」

　リーグ戦形式になってから、あらかじめ対戦相手がわかっているので、どのチームに誰（投手）を当てるのか……首脳陣が頭を痛めるところだと聞くが、どのチームもやはり「初戦」は負けたくないのは共通の思いのはずだから、初戦の先発に抜擢されるのは、その時点で最も頼りにされている投手なのだろうと察しがつく。

　TDKがその大切な初戦に20歳、3年目の左腕を持ってきた。

　165cm63kg……小柄な左腕・佐藤開陸投手（左投左打・能代松陽高）の投げっぷりを初めて見たのは、一昨年の社会人・東北大会。まだ入社したばかりの小さな左腕が、接戦の中盤、中継ぎのマウンドに上がったから驚いた。

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