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「私はオリンピックのためにレスリングをやっている」 57kg級世界女王・川井梨紗子の苦しい胸中
posted2021/01/20 17:01
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph by
Sachiko Hotaka
月日が経つのは早いものだ。1月上旬、強化合宿に招集されたレスリング57kg級代表の川井梨紗子は代表メンバーの中で、自分が同期で68kg級代表の土性沙羅とともに上から2番目の年齢になっていることに気づいた。
「今日たまたま沙羅と『強化合宿に初めて来た時、私たちはまだ高校1年生だったのに』という話をしていたんですよ。そのとき、まわりには年上しかいない状況だった。スパーリングをしたら負けるのが当たり前。誰とやってもきついと思っていました」
現在26歳の川井は、いまや日本代表チームの主将を務める身だ。一昨年の世界選手権やワールドカップ(国別団体対抗戦)ではリーダーシップを遺憾なく発揮した。ある関係者は川井を「明るく聡明」と評していたが、頷かざるをえない。自分のことだけではなく、チーム全体のことも考えられるのだ。責任感があることだけをとっても、川井ほどまとめ役としてうってつけの人材はいない。
世界の頂点に立っても若い選手が苦手?
そんな川井にとって今年度第1弾の代表合宿のテーマは「自分の苦手なタイプの子と積極的に練習できたらいい」ということだった。
「やっぱり勇気が必要なことなんですけど、頑張ってやろうかなと思っています」
すでにオリンピックで金メダルを獲得。世界選手権でも3度優勝している川井にも国内で対峙したくないタイプがいるのだろうか。
「苦手というか、若い子が多いとそういうふうに感じてしまう。だから若い子の勢いを(ダイレクトに)感じた方がいいのかなって」
57kg級で世界の頂きに君臨する川井は国内でも常に追われる立場にいる。そのせいだろうか、たとえ練習でも「(世界の舞台で)優勝しているから負けたらいけない」「ポイントをとられたらいけない」と考えるようになった。自分を守ろうとする思考が若手とやりたくないという方向に向かわせたのか。
「実際にやるとなると、自分でも勇気がすごく必要になってくる。でも、東京オリンピックのためにと思ったら、若い子の勢いに押されたり、ポイントをとられたりするかもしれないけど、ここでやらなければダメだと思いました」