JリーグPRESSBACK NUMBER
【前田遼一引退】“谷間の世代”と呼ばれて…あえて「暁星→ジュビロ」を選んだ“不器用な男”の21年間
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byToshiya Kondo
posted2021/01/16 11:02
14日、現役引退を発表した前田遼一
当時はまだ強豪校とは言えなかった桐光学園を率いて、高校選手権準優勝に輝いた中村俊輔に前田は憧れていた。中村の高い技術力、ドリブルに魅かれただけでなく、自身もまた中村のように暁星学園高校をけん引し、選手権を勝ち進みたいと考えていた。だからときにはチームメイトに厳しく当たることもあったと、のちに振り返っている。
前田自身はすでにU-18日本代表にも選ばれ、有名な存在だったが、結局一度も高校選手権には出場できなかった。彼が抱いていた渇きを埋めたのが、磐田での練習だったに違いない。
けれど、プロの世界は甘くない。目を輝かせながら笑う18歳の前田に、あるJリーガーの話を告げた。
「磐田の練習に参加した帰りの新幹線のなか、選手名鑑を見ながら自分と年齢の近いMFの顔ぶれを見て、磐田へ行っても試合に出るのは難しいと入団を断念したのが、中村俊輔なんですよ」
すると前田は「だから楽しかったんですね」と答え、自分と同じポジションの先輩の名前を挙げながら、「なるほど」と納得顔を浮かべ、笑った。やはり楽しさが一番なのだろうとほほえましい気持ちになった。
名門の厳しい言葉にも「こんなもんです」
当時の磐田は個性豊かな日本代表クラスの選手が揃い、強豪として君臨していた。試合になれば、ときに罵声も飛び交うチームの一員として、果たしてこの少年はやっていけるのか? 強い興味を抱いたことを覚えている。
「僕がシュートを外すと、周りの選手がみんな『アチャー』って感じでコケているんですよ。お笑い番組でコケているみたいな感じで」
自分の失敗を、少し楽しそうに前田は話してくれたのは、磐田に加入して数カ月経ったときのことだ。
「遼一、俺のコース消すな!!」
「途中から出て来たのにすべてが中途半端で何がやりたいのかわからない」
「お前の視野はどれだけ小さいんだ」
実際、前田には笑えないくらい厳しい言葉がチームメイトから発せられていた。それを彼はどう受け止めているのだろう。「ごめんなさいという感じですか?」と訊いてみたことがある。