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内村航平「これは鉄棒に絞れという運命なのか」個人総合への未練を断ち切れたワケ
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byAFLO
posted2020/12/31 17:01
激動の1年を終え、内村は来夏の五輪にしっかりと照準を合わせている
最悪な演技順でも内村はさすがだった
しかし、レアケースへの遭遇はこれだけにとどまらない。12月の全日本選手権の演技順を決める抽選で内村が引いたのは全体の1番手。しかも同組には内村以外の選手がいないという、きわめてイレギュラーな状況下での試合となった。
ある意味最悪な演技順。けれども内村はさすがだった。H難度の「ブレットシュナイダー」を予選と決勝の2回連続で完璧に決めたのである。冒頭に述べたように結果はぶっちぎりの種目別優勝だった。
「この1年はかなり多くのことを経験できましたね。全日本選手権では、6種目でなく鉄棒だけの演技でも、同じ組に1人しかいなくてもできましたし、11月には偽陽性のこともあって2日間何も練習できない状況からあれだけの試合をできたことも良かった。五輪に向けて、経験しなければいけないことを全部経験できたかなと思います。もはやどんな状況でもできるというくらいになっています」
「どうやったら出来るか」へ考えを変えてほしい
11月の国際大会の閉会式では、日本・中国・ロシア・アメリカの30選手を代表して挨拶の場に立ち、逆風を覚悟で「東京五輪を『出来ない』ではなく、『どうやったら出来るか』へ考えを変えてほしい」と訴え、リーダーシップを見せた。
12月の全日本選手権で見せた完璧な演技は、内村が21年春に行なわれる東京五輪代表選考に向けて万全な状態でスタートラインに立ったことを示すものとなった。
「試すことはもう終わった。あとは精度を高めていく段階です」
苦しみ、悩み、重い決断をし、コントロールの及ばない事象と向き合い、トップアスリートとして何をすべきかを真摯に考えた1年。内村の体操備忘録には多くのことが書き込まれた。