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内村航平「これは鉄棒に絞れという運命なのか」個人総合への未練を断ち切れたワケ
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byAFLO
posted2020/12/31 17:01
激動の1年を終え、内村は来夏の五輪にしっかりと照準を合わせている
「これは鉄棒に絞れという運命なのか」
内村は2月6日にオーストラリアで参加した試技会で“鉄棒の神様”と呼ばれるゾンダーランドと会っていた。
「その頃の僕は、鉄棒に絞るのが良いのか、6種目やらないとダメか、気持ちが揺れている時でした。その時にたまたまゾンダーランドもいて一緒に試技会に出て、刺激をもらいました」
徐々に鉄棒に専念する方向に気持ちが傾いていた内村にとって決定打となったのが、3月下旬の東京五輪の1年延期決定だった。
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「僕自身は決定前から“延期になるのではないか”と予想していて、延期されたら6種目やるのは確実にきついと思っていました」
ゾンダーランドに会い、さらには五輪延期という事態に直面。内村は「これは鉄棒に絞れという運命なのかという考えにつながっていきました」と述懐する。
ただ、内村は鉄棒に絞ると意思を固めた後も、数カ月間は公表せず、決断を胸の内にとどめていた。個人総合への未練はたっぷり残っており、決断を覆すことになる可能性があるうちは思いを秘め、時間をかけても心が変わらないことを自分で確認してから表明したのだった。
それからは時間の流れがあっという間だった。本来ならば東京五輪が行なわれていた7月、8月は足早に過ぎ去り、気がつけば9月になっていたというのは前述の通りだ。
PCR検査で陽性、練習ができない状況に
秋は秋でまた別の出来事に見舞われた。新型コロナウイルス問題が直に内村に降りかかったのだ。11月8日に東京で行なわれた国際大会に向けて、10月下旬に行なった最初のPCR検査で内村の検体から陽性反応が出て、2日半の間、宿舎の個室から一歩も出ることができず、練習を一切することができなかった。
内村はその間、個室のベッドの上でストレッチをしたり、宙返りをしてみたり。最終的にはPCR検査で1、2パーセントはあるという「偽陽性」だったことが判明し、大会は予定通りに開催され、内村自身も出場できた。結果としては今後のスポーツイベント開催に向けて運営側にとっても得難いシミュレーションとなった。