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イタリアの“消えた天才”は今、何を? タバコ1日20本の酔いどれゴーラー、下ネタ連発テクニシャン…
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2020/11/24 17:02
ウブネル(左)とディアマンティ。濃すぎるパーソナリティのフットボーラーには心惹かれてしまう
豪州にはイタリア移民社会が発達しているし、何よりノープレッシャーのサッカーを心から楽しめているからだ。「1時間後、1日後、何が起こるか誰にもわからない。このご時世だからこそ、大事なのは頭をオープンにすることさ」
イタリア語の天才には“精神”がある
“天才”にあたるイタリア語「genio(ジェニオ)」には、“精神”という意味合いも含まれている。
ボールを自在に操ることのできる才を持つ者は、銀行口座の残高が多いクラブがどんどん肥大化していく世界の中にあってなお「サッカーは純然と楽しいものだ」と心の底から言える。
弓なりのパスが描く曲線とゴールがネットを揺らす音だけで、彼らは魂の自由を得ることができる。
ウブネルにアシストしたのは18歳ピルロ
97-98年シーズンにブレシアで30歳の遅咲きセリエAデビューを果たしたFWウブネルは、インテルとの開幕戦で初ゴールを決めた。アシストしたのは、弱冠18歳のアンドレア・ピルロだった。
「あいつこそ本物だったよ。一緒にプレーした連中の中でも飛び抜けていた。ブレシアではキャリア晩年のバッジョともプレーしたが、もう満足に動けなかった彼より真にチームを操っていたのはピルロの方だった」
あの頃の奴はまだ球離れが甘くてどやしつけたこともあったな、とウブネルは昔を思い出して少し笑う。
名声よりも、グラッパと煙草を
ピルロやバッジョほどの名声はついぞ得られなかった。
だが、彼にはグラッパと煙草を嗜めるサイズの暮らしがあればそれでいいのだ。
現役キャリアの晩年、ウブネルはクラブの不手際で金銭授受を禁じるアマ規定に引っかかり、不本意ながら長期出場停止を受けた。処分期間中、元セリエA得点王は近所の青年団チームに赴き、仲間に入れてもらって汗を流した。復帰したときにすぐ動けるようにするためだ。
天才たちは、根っからのサッカー好きだった。