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6年連続ドラフト入りの花咲徳栄高校 岩井監督「オヤジ、やっとドラ1を出すことができました」
text by
上原伸一Shinichi Uehara
photograph byShinichi Uehara
posted2020/11/21 17:03
ソフトバンクに1位指名された井上朋也(左)を握手をかわす花咲徳栄高校の岩井隆監督。同校として初の「ドラ1」となった
プライドを消し去るという約束
井上の非凡さを示すのが、2年秋の大会の成績だ。打撃フォーム改造の真最中に行われたにも関わらず、埼玉大会では6試合で6割近い打率を残し、2本塁打、9打点をマークしている。岩井監督からは「大会までにしっくりこなかったら、大会では元に戻せばいい」と言われていたが、過渡期にこれだけの数字を残すのは並大抵なことではない。
秋の関東大会が終わると、岩井監督と井上はマンツーマンで打撃練習に取り組んだ。主たるテーマは、バッドヘッドを投手寄りで抜くことと、ボールに対してバットが立った状態で入るようにすること。
「木製バットでも通用する打ち方ですね。井上はややアッパー気味にバットが入り、体に近いところで打っていたので」
岩井監督はこの2つのポイントだけを修正することはせず、ここを直せばここがこうなり、全体がこうなると、系統立てて、稲垣氏直伝の打撃理論を教えた。井上は「バットヘッドを入れた時に力が入らない」と悩みを明かした時もあったが、フォーム改造にあたって岩井監督と交わした約束を守った。約束とは、これまでの実績をサラにして、プライドを捨て去ることだった。
「ほんの少しでもこれまでは……と思ったら、絶対に新しいフォームは身に付きませんからね」(岩井監督)
打撃が大好きな井上を、サードにコンバート
幼少期から小学6年まで空手と書道を習っていた井上は、その精神がベースにあるからか、打撃に関してはとことん追求するタイプだ。今も毎日スマホに、今日はどんな感じだったか記録している。井上の担任で、花咲徳栄の女子ソフトボールの監督でもある樋口尚美先生は「いつもバッティングのことを考えているのでしょう。学校でもよくスイングの動作をしています」と明かす。
フォーム改造真っ盛りの2年冬は、しばしば岩井監督とバッティング談義をしたという。
半面、「守備に対する意識が打撃ほどはない」と岩井監督は見ていた。「サードが守れれば、プロの評価も変わるので」と、それまでの外野よりも守備機会が多い三塁にコンバート。さらにはキャプテンにも据えた。
「バッティングのこと、自分のことばかり考えていないで、チーム全体のことを見なさいと。野球選手としての質を高めたかったのです。それと、井上は1人で黙々と練習できるマイペースなタイプですが、一方で仲間から好かれる面がある。井上が先頭になって冬場のメニューに取り組めば、みんながついてくる、というのもありました」