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劇的な日本シリーズ 大野豊「何故おれじゃなくて川口なのか」そのとき川口和久は… 【西武対広島】
text by
赤坂英一Eiichi Akasaka
photograph byKoji Asakura
posted2020/11/20 06:00
本拠地で迎えた第7戦、最後のバッター野村を三振に斬ってとり、抱き合って喜ぶ工藤と伊東のバッテリー
達川さんから“カット”のサインが出たんです
1勝1敗として本拠地に移った広島は、西武相手に堂々たる力相撲を見せる。ベテランの北別府学が先発した第3戦こそ0-1で惜敗したが、第4戦は2度目の登板となった佐々岡が8回1死まで無安打無失点と力投し、大野が再び最後を締めて、7-3で勝つ。これで2勝2敗のタイだ。
そして、第5戦には川口が2度目の先発マウンドに上がる。中3日で肩がバリバリに張っていながら、初回1死一、二塁から清原を新球カットボールで遊ゴロ併殺打に仕留め、序盤から主導権を握った。最大のヤマ場は3-0で迎えた8回2死満塁で、打席に秋山を迎えた場面。カウント1-2と追い込むと、達川はインサイドへの真っ直ぐを要求する。が、川口は首を振った。
「違う違う、と何度も首を振って、投げるボールがなくなったとき、達川さんから“カット”のサインが出たんです。それそれ! と思い切り腕を振った」
川口はベンチに入れると告げられる
ところが、力んだぶん手元が狂ったのか、秋山の身体から逃げていくはずの勝負球はスライダーのような軌道を描き、外角からストライクゾーンへ入っていった。
「いまで言うバックドアになったんです。あんな球、もう一度投げろと言われても、絶対に投げられないでしょう」
予想外のコースから入ってきたストライクに秋山はまったく反応できず、呆然と見逃し三振。最大のピンチを脱した瞬間、達川は天に向かって両手を突き上げた。
王手をかけて戻ってきた西武球場での第6戦を前に、川口は首脳陣からベンチに入れると告げられる。そのとき、「えっ、どうして?」と、川口は思った。
「ぼく自身はてっきり、次は第7戦の先発だと思っていた。結果的には雨で日程が1日延び、中3日でいけたんですよね」