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“豚の頭”のような憎悪と熱狂なき無観客クラシコ 闘将セルヒオ・ラモスの偉大なしたたかさ
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph byGetty Images
posted2020/10/27 11:02
ここ数年のセルヒオ・ラモスの勝負強さには舌を巻くばかりだ。無観客のクラシコでも鮮やかに主役となった
開始わずか5分、バイタルがぽっかりと
繊細な料理と上質な器のように、サッカーとサポーターの存在は、やはり切っても切り離せない。
開始わずか5分、ホームのバルサはなぜかぽっかりと開け放ったバイタルエリアをカリム・ベンゼマに攻略され、最後はフェデリコ・バルベルデにいとも簡単にゴールを許す。おそらく、盛大なイムノの大合唱に背中を押され、緊張感たっぷりにキックオフを迎えていれば、あれほど弛緩した立ち上がりにはなっていなかっただろう。
もっとも、無人のスタンドが生み出す弛緩した空気は、アウェーチームにも伝染する。早くも疲弊しきった試合終盤のようにオープンな展開になると、先制から3分後、マドリーはあっさりと追いつかれるのだ。
17歳アンス・ファティは肝が据わっている
縦パスに鋭く裏へ抜け出したジョルディ・アルバからのラストパスに上手く合わせ、同点ゴールを奪ったのは、超新星アンス・ファティだった。すでにスペイン代表でも不可欠な戦力となった17歳の掛け替えのない魅力は、日本で言えばまだ高校3年生というのが信じられないくらいの冷静さだ。とにかく肝が据わっていて、ゴール前で慌てることが決してない。
この日は左サイドではなくトップに入り、メッシと縦関係を築いたが、崩しとフィニッシュの両局面で違いを生み出せる神童は、前線ならどこで使われても平然と対応してしまう。
同点で迎えた51分には、ドリブルで中央を持ち上がったメッシから右サイドでパスを受けると、リターンを要求する王様を一瞥しただけで、お構いなしにシュート。対峙したセルヒオ・ラモスの虚を突くような一撃は惜しくもゴール左へ逸れたが、こうした強気の姿勢の向こう側に、「メッシ後のバルサ」が見え隠れするのだ。