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池江璃花子が初めてのインカレで見せた涙のワケ 「恥ずかしかった」復帰戦を越えて見つけたもの
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byHiroyuki Nakamura
posted2020/10/08 17:01
初めてのインカレで確かな手ごたえをつかんだ池江璃花子。自分のペースを大切に泳ぎ続ける
今も、以前も“池江璃花子”自身
質問に対してひとつひとつ真摯に答える姿を見ていると、2つの物差しが混在することに抗わず、イレギュラーな状況すらありのままに受け容れているように感じる。2つの物差しとは、第2の水泳人生の目盛りがついた定規と、トップスイマーとしての目盛りが刻まれた定規。葛藤はあるかもしれないが、2つある物差しの両方を泳ぎに当ててみるのもまた、自然なことのように思える。両方とも“池江璃花子”自身だからだ。
予定外ながら、大会2日目の女子400mフリーリレー予選に第3泳者として出た池江は、100mの練習をしてこなかったと言いながらも、56秒19の好タイムで泳いだ。引継ぎタイムとはいえ、「57秒台が出ればいいなと思っていたのでビックリしました」と、本人も目を丸くしていた。そんな驚きのひとつひとつも、パワーをもたらしているのだろう。
とにかく今は全力で水泳を楽しみたい
池江は、念願の初インカレを終えた翌日の10月4日、自身のインスタグラムのストーリーに、訪問先でたまたま見たという献血会場の写真を投稿した。写真には「献血のお願い!」の文字。そこに「ううー、自分もしたいけど出来ない…」のコメントを添えた。
退院してから間もない時期、「病気になった人たちに勇気を」と語っていた池江。胸の奥にある、つらさを味わっている人々に寄り添おうという気持ちは、驚くばかりの復帰ぶりを見せても、いささかも薄れていない。
「とにかく今は全力で水泳を楽しみたい。そして、タイムを出すために日々の練習を頑張ることがやるべきことかなと思います」
ありのままの姿と心を多くの人々とシェアしながら、池江は自分のペースを何より大切にして泳いでいる。