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「もっとバチバチしているかと…」期待の新人・伊勢大夢が明かす“DeNAのブルペン”
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byNanae Suzuki
posted2020/09/27 09:00
九州学院高から明大を経てドラフト3位で入団。大学時代は広島・森下暢仁とともにチームを牽引し、38年ぶりの全日本大学選手権優勝に導いた
感銘を受けた“力水”の儀式
マウンドに立つ当事者ではあるものの、ルーキーにとってブルペン内は刺激にあふれていた。とくに感銘を受けたのが“力水(ちからみず)”の儀式だ。DeNAのリリーバーは登板直前に水を口に含むと、声掛けと拍手を背中に受け気合とともにブルペンからマウンドへと向かっていく。力水を渡すのは、伊勢のような若手投手の務めだ。
「僕はだいたい初回からブルペンに入るので準備などが終わると、先輩たちに力水を渡すんです。けど、石田さんや三嶋さんは自分の出番がない展開になると、僕に力水を渡してくださったり、ブルペンの仕事を率先してやってくれるんです。その姿はすごく尊敬できるし、いつか自分に後輩ができたら、そういうことをやってあげたいなって思うんです」
なかでもよく言葉をかわすのは8つ年上の三嶋だという。現在はクローザーを任されているが、一時は絶望の淵にいたこともある酸いも甘いもかみ分けた苦労人だ。三嶋が発する言葉の重みは伊勢の胸の奥にズンと染みた。
「三嶋さんも以前は初回からブルペンに入って仕事をしていました。その上で『とにかく任されたら1イニングを3人で終わらせる。それを続けていけばいずれチャンスは訪れるはずだから』と。実際三嶋さんは今、守護神をやられているわけですし、いいピッチングをしていればそこに繋がるということを身をもって示してくれたので、僕もその背中を追っていけたらなって。いずれは大事なところを任されるピッチャーになりたいって」
自分が目指すべきお手本がいる。これもまた導きであり、運命である。
「自分がどういうボールを投げたいのか見えてきた」
さて肝心のピッチング内容だが、数字的には結果を残しているものの、マウンド上では苦労を強いられている印象だ。そう尋ねると伊勢は表情を若干曇らせ語った。
「1人を抑えるのに必死というか、結果だけ見れば三者凡退とかあるんですけど、いいバッターが多くて決め切れないというもどかしさはあります」
とくに開幕からしばらくは変化球の精度が悪く、カウントを悪くしてしまい自ら墓穴を掘ることも少なくなかった。また右のスリークウォーターの宿命か、左バッターに手こずる場面が多かった。
だが7月中旬にファームへ落ち、8月後半に一軍に再昇格すると、投球内容に変化が見られるようになった。苦戦していた左打者に対しバックドアのカットボールを効果的に使い、ゾーンを外すスライダーでタイミングをずらし、そして外にスッと流れ落ちるフォークで空振りを奪う。
「課題だった変化球も最近ではいい感覚をつかみつつあるんです。なにを決め球にするのか、自分がどういうボールを投げたいのか見えてきたので、階段を1つ昇れたのかなって。とくにカットボールはファームで自信をつけて、左バッターの内側に投げ込めるようになり、結果、球数が抑えられるようになりました。ただ、持ち味はやっぱり真っすぐ。今はフルカウントからでも打ち取れているので、真っすぐを生かすための変化球を使えるようになってきたと思いますね」