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「ついにメッシを破った」ジダンはなぜ監督として成功できたのか バルダーノら10人の証言
posted2020/09/20 11:50
text by
フレデリック・エルメル&フローラン・トルシュFrederic Hermel et Florent Torchut
photograph by
Franck Faugère/L’Équipe
『フランス・フットボール』誌7月21日発売号は、史上最多となる34度目のリーガ・エスパニョーラ制覇を成し遂げたレアル・マドリーのジネディーヌ・ジダン監督を取りあげている。ジダン本人のインタビューではない。様々な人々の証言から、監督ジダンの真の姿を浮かびあがらせるのが狙いの企画である。証言するのはレアルの元選手やサポーター、ジャーナリスト、さらにはライバルであるバルセロナの選手、マドリード市長など多岐に及ぶ。フレデリック・エルメル、フローラン・トルシュ両記者が記す彼らの言葉は、ジダンという他に類を見ないタイプの監督を見事なまでに的確に言い表している。
(田村修一)
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昨季のレアル・マドリー成功の最大の功労者がジネディーヌ・ジダンであるのは論を俟たない。ZZ(ジダンの愛称)はレアル・マドリーに関わる人々のみならず、彼を取り巻く世界を征服したのだった。
ホルヘ・バルダーノ「ジダンはメッシを破った」
レアル・マドリーの元選手、アルゼンチン代表として1986年ワールドカップ優勝。引退後はレアルの監督とスポーツディレクターも務めた。
「これまでのジダンに唯一欠けていたもの、それはメッシに勝つことだった。彼はそれを今、実現した。というのも昨季のバルサはかつてないほどにメッシのチームで、それ以外の要素はほとんどなかったからだ。ジダンはメッシを破った。ジダンはレアルという豊饒なグループの管理人として秀でていた。これは人々が思っている以上に大変なことだ。彼にそれができるのは監督としての思慮深さが他に類を見ないからだ。あらゆる領域での彼の進化には驚かされるばかりだ。
ひとりの人間としてまたプロフェッショナルとして、彼は知性に溢れている。そして知性に溢れる人間の常として、自身の経験を進化に繋げている。彼が勝利を得たのは誰よりもよく新たな状況に適応したからであり、チームを適応させることができたからだ」
カルトス・フォルハネス「メディアとの関係を改善した」
『アス』紙記者
「2016年1月4日にレアルの監督に就任してから、ジダンはメディアとの関係を改善していった。今の彼は興味のない質問をかわす術を完ぺきに心得ている。言葉が少なければ少ないほどうまく対応ができることを。会見で記者が質問を始めるや、彼はどう答えるかを考えている印象を受ける。だから質問が長引くほど彼はその意味を無化し、ぬるま湯のような意味のない言葉で対応する。彼はメディアに対し壁を築いて自らを守っているが、その壁には穏やかな微笑みが常に浮かんでいる。彼の微笑みはメディアの追及を和らげ、辛辣な批評をしにくくさせる効果がある。そうであるから彼から本音を引き出すのはほとんど不可能でありながら、ジャーナリストとの関係は極めて良好だ。
彼がそうした態度をとる目的は2つある。1つは戦術的な情報を対戦相手に与えないこと。そしてもう1つは、時間とエネルギーの無駄遣いでしかない不毛な論争(それはしばしばバルセロナから発せられる)に関わらないことだ。彼が唯一自分の意志でコントロールできないのは移籍市場だけだ」