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“借り物”背番号106の衝撃デビュー なぜ巨人ファンは“不完全な”澤村拓一を9年半愛し続けたか
text by
中溝康隆Yasutaka Nakamizo
photograph byKyodo News
posted2020/09/09 17:00
9月8日、ロッテ移籍後初登板の日本ハム戦、3者三振に仕留めた澤村拓一。
そして、9月7日午後に飛び込んできたニュースが、ロッテ香月一也との電撃トレードである。驚いたが、不思議と納得してしまっている自分もいた。抑えに先発に中継ぎに3軍調整までした。でも、何かが劇的に良くなることはなかった。何より、最近の背番号15は投げていてまったく楽しそうじゃなかった。もう環境を変えるのがベストだろう。9年半、本当に楽しませてもらった。
現代の名将・原辰徳は、破壊と再生を繰り返し、ほとんど完全な新チームを作り上げようとしている。首位を独走する今の令和の巨人軍には何でもある。だが、突っ込みどころだけがない。村田修一の芸術的ゲッツーに盛り上がり、セペダの打率.000を堪能し、澤村が先頭打者への四球を出すと「またかよ」じゃなくて「きたコレ」と盛り上がる。そんな真剣勝負の中のオアシスみたいな存在。無駄を削ぎ落としアスリート化が進む2020年の圧倒的な強さを楽しみながらも、時々ふとそんな隙だらけの巨人が懐かしくもなる。それは、自分にとって澤村拓一の投球に一喜一憂した日々でもあるからだ。
思えば、完全が求められるプロ野球界で、不完全さを愛された男だった。ロッテ入団会見が行われた8日には、さっそくZOZOマリンで登板。スプリットがキレまくり3者連続三振というド派手なデビューを飾り、久々に吼えた。あれだけ楽しそうな表情は久々だ。57番のユニフォームが間に合わず、借りた106番だったのもどこか澤村らしい。
しかも、打席に立っていたのは日本ハムの大田泰示、ベンチでそれを見守るのは矢野謙次コーチ。彼らもまた「巨人軍が青春のすべて」だった男たちだ。あの頃、想像した未来とは違うけど、それぞれの野球人生は確かに続いている。
近い内、球場へ“ロッテの澤村拓一”を見に行こうと思う。ボロボロになったオリンパスの双眼鏡を持って。
See you baseball freak……