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現地記者が見たインディと佐藤琢磨。
最も静かな優勝で見せた「強さ」。 

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福原顕志

福原顕志Kenshi Fukuhara

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photograph byINDYCAR

posted2020/09/01 17:00

現地記者が見たインディと佐藤琢磨。最も静かな優勝で見せた「強さ」。<Number Web> photograph by INDYCAR

2度目のインディ制覇を達成した佐藤琢磨。異例尽くしの大会だったが、レース後には感謝の言葉を述べた。

ブリックヤードに恒例のキス。

 レース後、琢磨がこの時の戦略を明かした。

「フルパワーで走りたかったけど、それでは燃料を使い切ってしまう。なので、ディクソンが離れた時にはすぐに燃費を稼げるモードにして、彼が攻めて来たらまたパワー重視に戻す、というのを繰り返していたんです」

 相手のディクソンは、レース後に「琢磨が捨て身で飛ばしていると思って、燃料切れになるのを待っていた」と語ったが、琢磨は実は最速のスピードを温存しつつ、きっちり燃費を計算して走っていたのである。それができたのも、練習から予選を含めて何度も執拗にコースをシミュレーションして、燃費やタイヤの摩耗までデータを取り尽くしていたからであろう。

 残り5周で、チームメイトのスペンサー・ピゴットがクラッシュして一瞬ヒヤッとしたが、そこでイエローフラッグが振られ、追い越し禁止のまま、琢磨の2度目の優勝が決まった。

 3年前の優勝の時のように大勢の観客の拍手を浴びることはなかったが、それでも会場にいたメディアや関係者全員の温かい祝福が勝者を出迎えた。琢磨はチームスタッフと抱き合うと、全員揃ってブリックヤード(昔コースがレンガであった名残の部分)に恒例のキスをした。

勝つべくして勝った2度目の優勝。

 レースの後、2年前まで琢磨のスポッター(無線で車の位置を知らせるスタッフ)を務め、自身もインディカーのレーサーだったロジャー安川に話を聞いた。

「琢磨さんの良さはネバーギブアップ。それはレース中だけじゃなく、マシンのセッティングも時間が許す限りベストを追求する。他の選手はある程度セッティングの話をエンジニアとすれば満足して自分のモーターホームに帰る人が多いが、琢磨さんはエンジニアがもう帰ってくれ、と言うまでガレージに残ってデータと睨めっこをしている。コンマ0.01秒でもどうすれば速く走れるかというのを常に分析している人。そういう意味では、今年は無観客でレース以外のイベントがなかったので、空いている時間を全てガレージで過ごすことができたのが、メリットになったのは間違いないでしょう」

 すべてが腑に落ちた。無観客で静かに行われた今回のインディ500、佐藤琢磨は勝つべくして勝ったのだ。

 思えば、インディカーシリーズに参戦して3年目の2012年、2位を走っていた琢磨はラスト1周で果敢に攻め、接触して壁に激突し、優勝を逃した。その時の所属チームが、今のレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングだ。

 琢磨にとっては、8年越しの恩返し。チームの3人のオーナーと固く抱き合って喜ぶ姿に、チームを誰よりも大事に思い、共に戦うからこその琢磨の強さを見た思いがした。

【番組情報】
 このレースの模様を99分にまとめたダイジェスト版が放送されます! こちらの記事と合わせてぜひご覧ください。

NHK BS1
9月12日(土)18:00〜19:49
「佐藤琢磨 栄冠ふたたび! 世界最速レース インディ500」

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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