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現地記者が見たインディと佐藤琢磨。
最も静かな優勝で見せた「強さ」。
text by
福原顕志Kenshi Fukuhara
photograph byINDYCAR
posted2020/09/01 17:00
2度目のインディ制覇を達成した佐藤琢磨。異例尽くしの大会だったが、レース後には感謝の言葉を述べた。
ギリギリまでセッティングを追求。
予選は2日かけて行われ、決勝と違い一台ずつ4周を走り、その平均速度を競う。初日のタイムで9位以内に入ったマシンは、2日目にもう一度走りスタートポジションを競う。初日は自分のベストなタイムが出るまで、時間が許す限り何度走っても良い決まりだ。
琢磨は1回目の走行で9番手を確保した。誰かに抜かれれば9位から落ちるので、もう一度走るのは理にかなっていたが、午後は路面温度が上がるので好タイムは出にくい。やはり1回目のタイムを上回ることはできなかったが、琢磨はその後チームの反対を押し切って、さらにもう一度走った。結果的に1回目のタイムを超えられなかったが、9位に残って翌日のポジション争いに参加した。
予選2日目も、朝、2度コースを走ってシミュレーションをして予選に備えた。結果、4周を安定したタイムで走り、9台中3位で見事に最前列を獲得したのである。執拗に回数を重ねて走りながら、ベストなセッティングをギリギリまで追求した結果の好ポジションである。
「予選は純粋にスピードを求めますが、決勝は集団の中で物凄い乱気流に揉まれる中で安定するセッティングを施します。順調に仕上がってきていますが、もう一歩なんですね。もう一歩レベルを上げたいので、この数日間エンジニアたちとデータを見ながら最終調整をしています」
マシンに加えられた大きな変更点。
インディカーは、各チームがマシンを独自に開発するF1と違い、全てのチームが同じ規定のマシンを使う。エンジンだけはホンダ製とシボレー製のどちらかを選べるようになっていて、琢磨のマシンはホンダエンジン搭載だ。その車をレース当日の気候や路面の状態、ドライバーの走り方に最も適したセッティングに持っていけるかが、勝負の鍵となる。
今年はこの共通のマシンに1つの大きな変更が加えられた。ドライバーの安全を守るため、コクピットに戦闘機のような透明のシールドが装着されたのだ。新幹線より速い時速380キロで突っ走るインディカーでは、タイヤの破片などが弾丸のように飛んでくる。このシールドで確かにドライバーの安全性は増すが、重いパーツが上に乗ることで重心が高くなりふらつきやすくなる。乱気流も生まれやすくなるため、これまで以上に精密なマシンの調整が必要だ。
このシールドの影響もあり、今年は例年より前の車を追い抜きにくいレースが予想されていた。最前列からスタートする琢磨は大きなアドバンテージを手にしたことになる。
「確かに前に2台しかいないので乱気流も少なくリスクが少ないです。自分のレースがやりやすいですね。ただ大事なのは最後の30周。そこで最低5位、できれば3位か2位にいないと優勝は難しいです」
3時間近いレースを辛抱強く戦う準備はできているようだった。