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ジオリートのノーヒッターが示す事。
「2年前、最悪の投手だった彼が……」
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph byGetty Images
posted2020/08/31 19:00
ノーヒッターを記録してチームメイトに祝福されるルーカス・ジオリート。選手の成長曲線とは読めないものなのだ。
手術からの復帰過程で得た得意球。
実はノーヒッターを達成する12時間ほど前、当のジオリートが同局の番組にリモート出演し、こう語っていた。
「トミー・ジョン手術をして以来、登板間のブルペンやキャッチボールで毎回、『こうしたらもっと良くなるかな?』と思いながら投げるようになった。オフの間のトレーニングだけではなく、登板までの準備の段階、その過程で自然と腕の動きもあんな風になった」
ジオリートが右ひじに違和感を覚えたのは、アメリカの高校野球のシーズンが始まったばかりの高校3年生の3月だったらしく、同年6月にドラフト1巡目(全体16位)でナショナルズから指名を受けてプロ入りした直後に手術をしたそうだ。
そして、その復帰過程で彼は今や「メジャー屈指」と言ってもいい「2シーム・チェンジアップ」も投げ始めたという。
「復帰のプロセスはとてもスローだったから、自分の持ち球について考える時間もいっぱいあった。チェンジアップを投げ始めたのもその頃で、最初は4シーム回転だったが、いろいろ握りを試している内に今の2シーム回転になった。僕のファストボールは4シームなのに、チェンジアップに関しては今でも2シームの方が感覚がいいんだ」
冒頭の「野球人生最高の思い出はリトルリーグのサヨナラ満塁本塁打」も同番組でのコメントだが、今ではそれが「ノーヒッター」に変わったかも知れない。そして、もしかしたら彼は、これからそれ以上の「思い出」を作ることになるかも知れない。
ホワイトソックスも追い風に乗っている。
ジオリートのノーヒッターで、ホワイトソックスはア・リーグ中地区でインディアンスと同率(.600 18勝12敗)に並びツインズに1.5ゲーム差の2位となった。直前のカブスとの3連戦でも、ダルビッシュ有投手に止められるまで2日で26安打(11本塁打)17得点の猛攻で連勝しており、連日のように強力打線が爆発して勝ち星を積み上げている。
2年連続首位打者を狙うティム・アンダーソン遊撃手、カブスとの3連戦で6本塁打9打点と猛打を振るったホゼ・アブレイユ一塁手、ヨアン・モンカダ三塁手、イーロイ・ヒメネス外野手、驚異の新人ルイス・ロバートのカルテットと、「誰かが不調になっても他の誰かが打つ強力打線」がとても頼もしい。
課題は投手陣で、ジオリートとよく似たタイプのディラン・シーズやベテラン左腕のダラス・カイコー(日本表記はカイケル)以外の投手陣が不安定ではあるのだが、開幕前の予想通りの位置に落ち着いているツインズやインディアンスにとっては、今月末のトレード期限を前に補強されると、かなり厄介なことになるだろう。
「まだ良くなるのは分かっているし、もっと多くのことが改善できる」
快挙達成のジオリートが残した言葉は、彼だけではなく、今のホワイトソックスそのものなのである――。