監督にも気づかないフリをした。

　心配した監督の門馬敬治が三塁ベンチからグラウンドに出てきたときも、ぎりぎりまで気づかないフリをした。

「抑えられるのか、みたいなことを言われて、抑えられます、って。じゃあ、行ってこい、って言われました」

　直後、犠牲フライを打たれ、2－2の同点に追いつかれたが、最後は冒頭のように、静寂の甲子園をびりびりと震わせるような気迫で押し切った。

　石田はこの回限りで、大事をとって交代。監督の独断だった。

　東海大相模は代わった投手が8回裏に勝ち越され、2－4で惜敗した。交代した石田は氷の入ったジップロックを左手に握りしめ、ベンチの最前線で、最後まで声を振り絞った。

「投げたかったです」

　1試合切りの甲子園。ともすれば、戦意を削がれても仕方がない状況の中、石田は最後まで闘争心をむき出しにして戦った。

「チームもずっと大阪桐蔭を目標にやってきた。大阪桐蔭は全国でいちばん強いチームだと思っているので、決勝戦のつもりで臨みました」

　まだ、投げたかったかと問うと即答した。

「投げたかったです」

　ほんの少しだけ声のボリュームが上がった。