“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
J1大分5連敗、片野坂監督は沈痛。
主将・鈴木が口にした「戻れる場所」。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byEtsuo Hara/Getty Images
posted2020/08/11 11:40
不用意な失点を重ね、攻撃でもいい形を残せない試合が続くJ1大分。トンネルから抜け出すことはできるか。
ハードワークが売りの大分にとっては。
連敗が続くと1つのミスがネガティブな空気を生み、自信を容赦なく奪い取っていく。もし試合間隔が1週間あれば、その間のトレーニングで課題を修正し、強度をコントロールしつつ、次の対戦相手を分析するなど、ある程度リセットした状態で試合に臨める。
しかし、ミッドウィークに試合がある現在はそうもいかない。試合翌日をリカバリーに充てると、たった1~2日間の練習で次節に臨むのだ。さらにハードワークがストロングポイントの大分は、個々のコンディションが試合の流れを大きく左右する。もちろんフレッシュな選手に入れ替えるが、一度ハマった負のスパイラルから抜け出すことは容易ではない。
「あと、結構ダメージがある選手も多い。チームを作り上げるという部分で、メンバーを変えると、やり方などいろんなことが変わってくる。やっぱり総力戦になるシーズンの中で、我々はちょっと難しさがあるなとは思います」(片野坂監督)
「戻れる場所が僕らにはある」
それでも、もし光明があるとすれば川崎戦の43分のシーンにヒントがあるかもしれない。
ボールを受けた最終ラインのDF鈴木が前線をルックアップ。寄せにきた相手の間が大きく開いていることに気づき、ドリブルを仕掛け、数的優位を作り出すと、この試合で初めて川崎の守備に歪みが生まれた。
鈴木が右サイドのFW高澤に縦パスを送り込むと、中央には田中と渡が走り込む。ファーにも左ウィングバックの香川勇気がいることを確認した高澤はドリブルを仕掛けながらフリーで飛び込んできた渡へクロス。クロスはDFに当たって渡にわずかに合わなかったが、川崎を慌てさせた。
このプレーは鈴木がパスを出せず、止むを得ずドリブルに切り替えたことが功を奏した形だったが、このカウンターで得たCKから決定機を作るなど、徐々に大分のベクトルが前を向き始めた。たった1つのプレーで風穴は開く。片野坂監督が標榜するサッカーの質は昨シーズンが保証している。だからこそ、今はもう一度原点に帰る時。鈴木は力強く言葉にした。
「いい時のサッカーという、戻れる場所が僕らにはある。それを参考にしながら、それ以上のサッカーをやっていかないとこのリーグでは生き残っていけない。もちろん戻れる場所があるからと言ってそこに固執するだけではなく、プラスアルファを中の選手が表現できればいいチームになると思うので、続けることが大事だと思います。5連敗しているし、もう(結果が出た)試合は戻ってこないので、目の前の試合に死に物狂いで臨んでいきたい」
自分たちで失った自信は、自分たちで取り戻さないといけない。今季は降格がないからこそ、降格チームが倍になるであろう来季への上積みにするために。原点に立ち返りながら、顔を上げて這い上がるパワーを全員で共有することが、このトンネルを意味あるものにする最良の方法だろう。