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内山高志、TKO勝ち。両目とも腫れ、
視界がない三浦隆司が「もう無理」。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2020/07/14 11:10
8ラウンド終了後のインターバル、内山のTKO勝ちが決まった。両目ともほとんど見えなくなった三浦が“ギブアップ”した。
一切の甘さを捨てるために、帝拳ジムに移籍。
これまで頼ってきた右への依存度がほぼゼロになったことが、結果的には自分のスタイルをベースにおいてボクシングの幅を広げる形となった。
三浦は内山との激闘から何を教訓として得たのか。
それは「まだまだ自分が甘い」ということ。
一切の甘さを捨てるために、当時3人の現役世界チャンピオンを抱えていた帝拳ジムに移籍する。フォークリフトで作業する仕事をキッパリと辞め、高校時代から交際していた幼なじみと結婚。ボクシングに集中する環境を整えた。
「ジムを移籍したのは、背水の陣というかボクシング人生のすべてを懸けたいという思いがあって。左だけに頼っていましたけど、これじゃダメだと思って引き出しを覚えたというか、一発に頼るスタイルからしっかりボクシングできるようなスタイルに変えることができました。
あの試合からディフェンスの重要性も学んだし、パンチをもらわないようにとやっていきましたから」
三浦が現役引退を表明した翌日に内山も──。
ジムワークはいつも4時間以上。栄養にこだわって毎日、牛ステーキ肉を頬張った。子供が生まれると家族を故郷・秋田に戻し、家賃6万円のアパートで単身生活を送った。ボクシングだけに時間を費やした。
内山戦から2年後、三浦はガマリエル・ディアスに9回TKO勝ちし、WBC世界スーパーフェザー級チャンピオンとなる。セルヒオ・トンプソンを退けたメキシコでの海外防衛、フランシスコ・バルガスとの壮絶な打撃戦……ボンバーレフトは海外で名を上げていくことになる。
内山とのフェイスオフ以降、自分から目をそらしたことは一度もない。甘い気持ちなど微塵もないから、相手より強い気持ちをつくれているという自負が常にあった。
「世界チャンピオンになるための必要な試合、必要な出会いでしたね。そして何よりも自分を強くしてくれた試合でした。あの負けがあったからこそ、強くなれたんだと思います」
両者が再び拳を交えることはなかった。最高の一期一会から、それぞれの闘いに向かっていった。
2017年7月28日に三浦が現役引退を表明すると、翌日に内山が1日遅れて現役引退を表明している。タカシとタカシは何故だか不思議と縁があった。
あの日、戦うのはきっと運命だった。
お互いに己を知るために、お互いに強者となるために――。