右の拳がチャーシューの塊みたいに。

　強いメンタルを誇るファイターとして名を馳せる三浦の気持ちを折ったうえでの勝利。

　右手を負傷して、そのまま左でコントロールしたという単純な括りでは収まらない。負傷したことを悟られず、狙いを定めて作戦を遂行する内山のしたたかさ。

　そのためには距離を取って戦うだけでは十分とは言えず、リスクを背負ってでも強打を誇るチャレンジャーとの打ち合いにも応じ、いかなる場面においても優位性を保とうとした。

　壁の高さを顕示することで三浦の強いメンタルを少しずつ吸い取っていった。
　
　試合後、控え室に戻ってきた内山は苦痛に顔をゆがめた。

「終わった瞬間にグローブを外してもらったんですけど、バンデージを巻いている右の拳は出血がたまってパンパンで、チャーシューの塊みたいになっているんですよ。普通の3倍くらいの大きさ。一目見て、やばいって思いましたよ」

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　中手骨と右手根骨の脱臼と診断され、手術に踏み切っている。

「右を使えなかったのが、逆に良かったのかも」

　この代償は大きく、半年以上右拳を使って練習できなかった。

　延期になっていたホルヘ・ソリスとの王座統一戦はその年の大みそかに実現。三浦戦と同様、左を磨きまくって臨み、左フック一発で失神KO勝ちを収めている。「右で倒すKOD（ノックアウトダイナマイト）」は「左でも倒すKOD」にバージョンアップを図った。

　以降も防衛を重ねて、計11度の防衛に成功する。

　三浦戦の経験が大きかったと内山は言う。

「あれだけの苦しい試合を乗り切ったのと、後に世界チャンピオンになる三浦にああやって勝てたことはやっぱり自信になりましたよ。パンチはあるし、気持ちも強い相手ですから」

　そして内山はこう言葉を付け加えた。「右を使えなかったのが、逆に良かったのかもしれない」と。

　その意味を尋ねると、彼はひと呼吸置いてから語った。

「もし俺が思い切って踏み込んで右ストレートで倒そうとすると、逆に三浦のカウンターを食らう可能性だってあるわけです。でも右が使えないから、距離を取って慎重に戦っていくことにしたんです。結果的にはそれで良かったんだなって」

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