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苦しみぬいた大迫勇也の今季総括。
内なる激情が極限まで達した瞬間。 

text by

島崎英純

島崎英純Hidezumi Shimazaki

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photograph byAFLO

posted2020/07/10 11:50

苦しみぬいた大迫勇也の今季総括。内なる激情が極限まで達した瞬間。<Number Web> photograph by AFLO

ブンデスリーガ入れ替え戦で先発出場した大迫勇也。怪我などで苦しいシーズンとなったが、最後に躍動を見せた。

大迫への辛辣なリアクション。

 かつて、リューベック、ハンブルクと共にハンザ同盟の中心都市であったブレーメンは現在、地方都市特有の落ち着いた佇まいと歴史的な建造物が点在する町並みも相まって、忙しない雰囲気とは無縁の空気が満ちています。

 そんな街の様子と同じく、普段のブレーメン・サポーターは友好的で牧歌的でチームや選手に寄り添う心暖かな方が多いのですが、今季チームが低迷していた時期のベーザー・シュタディオン(ブレーメンのホームスタジアム)はこれまでにない不穏な空気に包まれていました。

 過激なゴール裏サポーターだけでなく、普段はビールを飲みながら談笑する姿が目立つメインスタンドの観衆も、ピッチへ厳しい目を向けていたように思います。特に批判の的になりやすい最前線の大迫に対するリアクションは辛辣で、負傷明けにポストワークで不安定さを露呈すると、両手を広げて溜息を漏らすサポーターが続出。メディアの立場で大迫のことを知る僕などは記者席で肩をすぼめ、我が事のように憂鬱な気分になったものでした。

 それでも、激しい闘志を内に秘める大迫は、そんな周囲のリアクションを受け止めつつ自身の不当な評価を払拭しようと死力を尽くしていました。今季の彼は、そんなタイトでシビアな環境の下で、かけがえのない経験を積んだのだと思います。

緊張感の中の戦いを見てきたから。

 ベーザー・シュタディオンの記者席からミックスゾーンまでは、スタジアム内の関係者地下通路を通って辿り着きます。暗く長いトンネルのような通路を抜けて視界が開けると、そこにはピッチに隣接したベーザー・シュタディオンのミックスゾーンがあり、ピッチで戦っている選手の姿を間近に見ることができます。

 今シーズンのブレーメンはたいてい試合終了間際に窮地に陥っていて、僕はそのヒリヒリとした緊張感の中、大迫を含めたブレーメンの選手たちが奮闘する姿を見つめてきました。だからこそ軽々しくは言えないんです。「今季のブレーメンは低迷した末、最終的に1部・2部入れ替え戦でなんとか残留を決めた」などとは……。

【次ページ】 プロ選手の矜持を抱いて。

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