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苦しみぬいた大迫勇也の今季総括。
内なる激情が極限まで達した瞬間。
text by
島崎英純Hidezumi Shimazaki
photograph byAFLO
posted2020/07/10 11:50
ブンデスリーガ入れ替え戦で先発出場した大迫勇也。怪我などで苦しいシーズンとなったが、最後に躍動を見せた。
逆境下で大迫が出した成績。
さて、我らが大迫の今シーズンはリーグ戦28試合8ゴール、カップ戦4試合1ゴールという成績でした。これは、ケルン在籍時代の2016-17シーズンのリーグ戦7ゴールを上回る自身リーグ最多のゴール数です。
ただ、昨年9月には左太ももを負傷して約1カ月半戦線離脱。復帰後もコンディションを取り戻すために時間を要したことも影響し、シーズン当初に任命されていた1トップの立場を一時失ってしまいました。
加えて、クラブはウィンターブレイク前後にハノーファー96からニクラス・フュルクルク、ヘルタ・ベルリンからダビー・ゼルケ(レンタル)の両FWを獲得して攻撃陣の再編成に着手。
その他にミロト・ラシカ、ジョシュ・サージェントなどの台頭もあって、一時期の大迫は自身の持ち味を発揮できずに苦しみ、新型コロナウイルスによるリーグ中断が明けた後の数試合は途中出場、もしくは途中交代するゲームが続きました。
大迫の激情が極限に達したとき。
ただ、そのような逆境下でこそ潜在的な力を発揮するのが大迫です。無観客試合が続くリーグ終盤、成績が低迷したチームは試合毎にFWの人選を目まぐるしく代えたのですが、大迫はライバルとのチーム内競争に打ち勝って再びFWのファーストチョイスに返り咲き、最終節のケルンとの一戦では2ゴールをマークして6-1の勝利に貢献。チームを降格圏から救い出しました。
最終節、大迫は試合開始前のセンターサークル付近で大きく手を叩いてチームメイトを鼓舞し、この一戦に対する思いを存分に示していました。
値千金の先制ゴールを決めた際は闘志むき出しの表情で雄叫びを上げ、「まだまだ、これでは終われない」とばかりに、祝福に集まるチームメイトへ奮起を促すアクションを見せていました。
普段は淡々とプレーする印象のある大迫ですが、大一番では備え持つエモーショナルな一面が露わになるのでしょう。最重要局面で力を発揮できるのはプロサッカー選手の突出した才能のひとつだと思うのですが、大迫の場合は彼自身の内なる激情が極限まで達したときに能力が爆発する。彼は、そんな稀有なパーソナリティを有する選手です。