フランス・フットボール通信BACK NUMBER
史上最高のワールドカップはどの回だ?
前編・ブラジルは革命的だった。
text by
エリック・フロジオ&バレンティン・パウルッツィEric Frosio et Valentin Pauluzzi
photograph byL'Equipe
posted2020/06/30 11:40
初めて《白いペレ》と呼ばれたトスタン。ブラジルサッカーを牽引し世界をうならせた1人だ。
ペレとの連携をテストした結果。
――トスタン、あなたも大会開始前の時点ではスタメンではありませんでした。
T :ザガロ(=マリオ・ザガロ。選手として2度、監督として1度、アシスタントコーチとして1度ワールドカップ優勝。監督では準優勝も1度ある)はサルダーニャよりずっと慎重な性格だった。サルダーニャは攻撃サッカーの信奉者で、南米予選でブラジルは爆発的な攻撃力を発揮した。前線にはふたりのウィング、ジャイルジーニョとエドゥを両サイドに置き、ペレと私が中央に構えた。
ところがザガロが赴任して、彼は「4-2-4はワールドカップで勝つために適したシステムではない。ペレと私(トスタン)を一緒にプレーさせることはできない」と言った。それで私はサブに回らざるを得なかった(微笑)。さらに彼はエドゥも外して、中盤にリベリーノ、クロドアウド、ジェルソンのトリオを配した。マークをより強固にするのがその意図だった。さらにボタフォゴ出身のザガロは、ジャイルジーニョとロベルトのボタフォゴコンビをペレと組ませようとした。
だが、このやり方はペレとジェルソンの間でオートマティズムが得られず、ザガロは私を投入してペレとの連携をテストした。幸いそれがうまくいったので、私は開幕をスタメンで迎えることができた。
「ピッチで何かやってやろう」
――そればかりかグループリーグ2戦目のイングランド戦(1対0でブラジルの勝利。グループリーグ最高の試合がこのブラジル対イングランド戦だった)では、優勝候補を相手に決定的な仕事をしました。
T:イングランドは本当に素晴らしいチームで、4年前の優勝メンバーをほぼそのまま揃えていた。戦術的によく組織されており、4-4-2システムは彼らが作り出した。コンパクトで崩すのが難しいシステムだ。
試合は長い間拮抗した。スペースがあまりなく、最終的にゴールは私のプレーが起点となって生まれた。左サイドで2~3人を相手にドリブルをしてペレにパスしたボールが、(誰もがペレがシュートすると予想したのに)ジャイルジーニョにわたって得点になった。
ほとんど誰も知らないことだが、このゴールの前にベンチに目をやると、ロベルトが私の代わりに出場する準備をしていた。それを見て、個人プレーをする気になった。「ピッチを離れる前に、何かやってやろう」と。そして神のおかげで私はサイドを崩すことに成功し、ジャイルジーニョのゴールへと繋がった!
ただ、それでも私は交代させられた。交代要求は得点の前になされていたからだ。とはいえゴールは私にとって大きな救いになった。あのときからザガロは、私を無視できないレギュラーと見なすようになったのだから(笑)。