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バイエルン偉業8連覇達成の立役者。
フリックの戦い方と強さの秘訣。
text by
島崎英純Hidezumi Shimazaki
photograph byGetty Images
posted2020/06/22 11:40
「8」連覇を達成したバイエルン。ハンジ・フリックの指導の下、ジェローム・ボアテンク(中央)らが躍動を見せた。
フリック監督の秀逸な手腕。
フリック監督は今回、初めてブンデスリーガ1部のクラブを指揮したわけですが、その指導者人生の過程は知見の機会に満ち溢れていました。
最初に彼の存在がクローズアップされたのは2006年、ドイツ代表アシスタントコーチ就任時です。現職でもあるヨアヒム・レーブ代表監督の下で研鑽を重ねて、EURO2008ではレーブ監督の退場処分によるベンチ入り停止を受けた準決勝ポルトガル戦で急遽チームを指揮して勝利し、ドイツ代表を決勝に導いてもいます。
フリック監督の采配を分析すると、強固なチームベースを維持したうえでの適材適所の起用法が光ります。兎にも角にも、まずはチーム全体の結束力を取り戻すために、年代、年齢の差異なく現況のベストメンバーを模索し、それを4-2-3-1のベーシックシステムに当てはめる手腕が秀逸だと感じました。
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特に代表から外れて“晩年期”と称されたDFジェローム・ボアテンク、MFトーマス・ミュラーに全幅の信頼を寄せてレギュラーへ再抜擢した点は、今季のバイエルンが苦境をリカバリーできた最たる理由だと思います。
窮地のバイエルンを救うため。
そもそもバイエルンは、守備陣の核であるニクラス・ズーレが昨年10月に左膝前十字靭帯を断裂して長期離脱を余儀なくされて窮地に陥っていました。
そこでフリック監督は左SBのダビド・アラバをCBにコンバートし、経験豊富なボアテンクを彼のパートナーへ据えることで守備の安定化を図りました。そして左SBに19歳の“新星”アルフォンソ・デイビスを抜擢。また、フランス代表としてロシアW杯優勝にも貢献したバンジャマン・パバールを代表と同じ右SBで起用して盤石の体制を築きました。
また、レオン・ゴレツカとヨシュア・キミッヒの両ドイツ代表を中盤底に置いたのも英断でしょう。戦況把握力に優れるキミッヒが縦横無尽にピッチをカバーし、シュート力が際立つゴレツカが前線の攻撃陣とコラボレートしてアタックに迫力を与える図式は重厚の一言です。
そして攻撃陣は1トップのエース、ロベルト・レバンドフスキを筆頭に、右にキングスレー・コマン、左にセルジュ・ニャブリという生きの良いアタッカーが並び、トップ下に新監督の下で再生を果たしたミュラーが鎮座するという豪華布陣。ちなみに、ニャブリは日本人的に発音が難しいのですが、こちらは総じて「グゥナーブリ」と呼んでいるように聞こえ、あの愛らしい容姿を連想させる「ニャ」の響きが感じられないのが残念です。