ツバメの観察日記BACK NUMBER
ヤクルト開幕投手、石川雅規40歳。
頭脳と義侠心、身の丈に合う投球。
text by
長谷川晶一Shoichi Hasegawa
photograph byKYODO
posted2020/06/19 07:00
高津監督が「150キロ、160キロを投げる投手より、印象に残るマウンドになるかもしれない」と期待する開幕投手の石川。
高津監督は迷うことなく石川を開幕投手に指名。
そして、プロ19年目を迎えた石川が、いよいよ神宮球場のマウンドに立つ。しかも、新型コロナウイルス騒動で揺れに揺れた20(令和2)年の開幕マウンドに。
今季から就任した高津臣吾監督は、自身最初の公式戦のマウンドを石川に託した。当初の開幕予定だった3月の時点でも、コロナ禍により日程修正を余儀なくされた5月の時点でも、高津監督は迷うことなく石川を開幕投手に指名した。
「彼が投げている姿に影響を受ける人はたくさんいる」と、高津監督が語っているように、身の丈に合った石川のピッチングは、ファンのみならず、チームメイトの胸を打つ。
だからこそ指揮官は、チーム一丸となって突き進むペナントレースのスタートに際して、石川を開幕投手に指名したのだろう。
突然立ち止まり、あいさつをしてくれた。
あれは昨年のシーズン中、神宮球場でナイトゲームが行われる日の昼過ぎのことだった。
ある選手のインタビューをするために、球場に隣接したクラブハウスに向かって球場外周を歩いていた。しばらくすると、視線の先に白いワイシャツ姿の若者と、練習用ジャケットを着た小柄な男性がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
極度の近視のために、その小柄な男性が石川だと気がついたのは、前方10メートルほどまで近づいたときのことだった。石川の横にいるのはスポーツ新聞の若い記者。室内練習場に向かう道すがら、簡単なコメント取材をしているようだった。
両者の邪魔になってはいけないと道の端に寄り、軽く会釈をして通り過ぎようとしたその瞬間。
「あっ、こんにちは」
石川は突然立ち止まり、記者との会話を遮った上で、こちらに向かってあいさつをしてくれたのだった。