ツバメの観察日記BACK NUMBER
ヤクルト開幕投手、石川雅規40歳。
頭脳と義侠心、身の丈に合う投球。
text by
長谷川晶一Shoichi Hasegawa
photograph byKYODO
posted2020/06/19 07:00
高津監督が「150キロ、160キロを投げる投手より、印象に残るマウンドになるかもしれない」と期待する開幕投手の石川。
「クレバーさ」「柔軟性」「義侠心」「思いやり」。
このとき石川は、さらにこんな言葉を口にした。
「僕の中ではまだ“もっと野球がうまくなるんじゃないか”って思って練習もしています。だから、“腕が壊れるまでやりたいな”って思いはありますね」
新型コロナウイルス騒動により当初の予定よりも開幕は大幅に遅れた。しかし、石川は先の言葉を裏付けるように、この間に五十嵐亮太からナックルカーブを学んだという。
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年齢を経てもなお、貪欲に新しいことに挑戦する柔軟性が、石川にはある。
冒頭で述べた「身の丈に合ったピッチング」とは、自分の持てるものを最大限に生かして成果を出す投球スタイルのことだ。しかし、それは新たな引出しを増やすことを断念するという意味ではない。
自ら語っているように、石川には今も「もっと野球がうまくなるんじゃないか」という思いが、その胸の内にある。この思いがあるうちは、年齢とはただの記号でしかない。
万全の体調ではないが、大事な試合を中4日で。
さらに、古めかしい言葉で言えば、石川は「義侠心」も兼ね備えている。
2015年にヤクルトを優勝に導いた真中満元監督、そして当時のピッチングコーチだった伊藤智仁現楽天投手コーチが、ともに「在任中のベストゲーム」と語るのが、2015年9月27日、石川が先発した対巨人戦だ。
両者とも、「石川は万全の体調ではなかったのに、優勝に向けた大事な試合で中4日で投げてくれた」と語った。この日の心境について石川は言った。
「普段から、監督やコーチから“投げてほしい”と言われたときに最高の準備をするのが自分の仕事だと思っているし、そういう存在でありたいと考えているので、“よし、やってやろう”という感じでしたね。
あの日はすごく冷静でいられました。前日もぐっすり眠れたし、朝起きても、“よし、今日は試合だ!”って、ワクワクしていましたからね(笑)」
石川には『頭で投げる。』という著書がある。頭を使ったクレバーな投球。そして、いくつになっても貪欲に新しい技術を吸収しようとする柔軟性。チームのためにいつでも投げるという義侠心。さらに、一ライターにまで気を遣ってくれる思いやり。
こうしたものの集積によって、石川の「身の丈に合ったピッチング」は完成したのである。2020年ペナントレースが、そして石川雅規の19年目のシーズンがついに始まる。捲土重来を期すシーズンだからこそ、石川の熟練のピッチングは一層の光を放つのだ。